僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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ビフォア・ウォッチメン:ナイトオウル/Dr.マンハッタン

ビフォア・ウォッチメン:ナイトオウル/Dr.マンハッタン (DC COMICS)

BEFORE WATCHMEN:NITE OWL・DR.MANHATTAN
著:J・マイケル・トラジンスキー(ライター)
 アンディ・キューバート、ジョー・キューバート、ビル・シンケビッチ
 アダム・ヒューズエドゥアルド・リッソ(アーティスト)
刊:DC ヴィレッジブックス ビフォア・ウォッチメンシリーズ3(全4巻)
アメコミ 2014年
収録:BEFORE WATCHMEN:NITE OWL #1-4  :DR.MANHATTANE #1-4  :MOLOCH #1-2(2012-13)
☆☆☆☆★

 

「ビフォア・ウォッチメン」シリーズ3冊目。
今回はライターに「ソー」のストラジンスキーを迎え、ナイトウル編はキューバート親子、マンハッタン編はあのアダム・ヒューズがアートを担当。表題作の他にモーロック編も収録。

 

正直、あまり良い評判を聞かなかったビフォアウォッチメンですが、1冊目を読んで、まあ気持ちはわかるけどやっぱり無謀な企画だよね、と思いつつ、あれ?2冊目のダーウィン・クックすげぇ良いじゃん?となり、この3冊目、あれれ?これ普通に面白くない?てゆーかめっちゃ面白いじゃん!という感じです。期待値が低かったのもあってか、予想以上に面白いです。

 

まずはナイトオウル編。
ナイトオウルと言いながら、コンビを組むロールシャッハさんもW主人公かというくらいに出番多め。

 

SMクイーンみたいなトワイライトレディも含め、シュールな感じもありつつ、きちんとストーリーは読ませてくれるのが流石。

 

バットマンのパロディ的な要素もありながら、ナイトオウル(2代目)はナイトオウルなりのキャラクターをきちんと確立してある辺りがとても上手い。「ウォッチメン」本編でもナイトオウルが一番普通の人という立場ですし、みんなロールシャッハが好きって言うけれど(私も好きだけど)、所詮はナイトオウルみたいな所が大衆の行きつく先でしょ?と思わせつつ、でもお前(読者)は所詮シーモア、という辺りがウォッチメン本編の面白い所。その無情さが最高。

 

でもね、その「所詮大衆はこんなもの」程度のナイトオウルもね、こうやって彼なりにヒーローを目指して、不屈の闘志で立ち上がる姿を見ると、その「所詮は」なりに頑張ってるんだよ、ふざけんなコンチクショー、俺はナイトオウルを応援するぜ!という気にさせられます。ナイトオウルかっこいい!ホッホー!

 

こうやってサイドストーリーらしいサイドストーリーを見せられると、やはり本編のキャラクターの立たせ方が圧倒的に上手かったんだなと再確認させられます。オジマンディアス、Dr.マンハッタン、ナイトオウル、ロールシャッハ、そしてコメディアンと5人それぞれの思想や立ち位置、物語の構造からくる理論で考えて作られたキャラクターながら、ただの役割以上の深みがちゃんとあって(あのページ数でですよ!?)それでいて結局はカチっとパズルのピースのようにハマってしまう、あの構成力。う~んやっぱり「ウォッチメン」以上の漫画は正直ちょっと思いつかない。

 

で、ちゃんとこの外伝は、ウォッチメンにおけるナイトオウルとはどういった存在なのか?何を描くべきなのかをちゃんと考えてストーリーを作ってあるように感じます。ストラジンスキーすげぇウォッチメン読み込んでるなぁ、みたいな。いやプロの作家でこういう企画なんだからそんなの当たり前っちゃ当たり前かもしれませんが。

 

そしてナイトオウル編はアーティストがキューバート親子。息子のアンディーがペンシラーでお父さんのジョーがインカー。で、#3まで仕上げた後にお父さんが亡くなってしまってこれが最後の作品になったんだとか。でもって#4でジョーの代わりに入ってくれたのがビル・シンケビッチ。なんかもうこれだけで感動ストーリーです。

 

続いてDr.マンハッタン編。
こっちのアートはあのアダム・ヒューズ。(日本でも画集が出ました)表紙絵担当しか知りませんでしたが、ちゃんとコミック本編もやるんですね。っていうか美少女アートしか基本知らなかったので、オッサンばっかりのこういう作品でも全然行けるなぁと感心しました。

 

で、話の方もメチャメチャ面白い。あのマンハッタンの時間や存在を超越したモノローグを完全再現。その上、量子力学の「シュレディンガーの猫」とかをここまでウォッチメンと絡めてテーマ性をリンクさせるストーリーテリング。正直、驚かされました。

 

それは勿論、アラン・ムーアが初めてやったものをきちんと分析して、ある意味コピーのような形で再現したのかもしれないですけど、それでもここまでやれるものだったのかと脱帽するしかない。

 

あの時間がひっくり返る所とか、半分遊び心っぽい感じにも思えるけど、絵と文字で一体何を表現できるものなのかをきちんと考えぬいて、こういう表現はどう?みたいにやったのかと思うと、メチャメチャ面白かった。

 

ところで私、「シュレディンガーの猫」ってオタクなので当然知ってましたが(結構漫画とかで引用されるネタですよね。私が最初に知ったのはゲームの「街」だったかも?)そもそもこれって、本来は量子力学を批判的に揶揄する為に言われた話だったんですね。解説書読んで初めて知りました。で、wikiで調べてもやっぱそういう記述がありました。わかりやすくて逆に広まったっていう面もあるらしいですが、まんまとオタクもそれに乗せられてたというわけですね。逆に面白い。

 

そしてもう一つ、モーロック編。
いやこれも面白い。ナイトオウルでもシーモアでもなく、所詮は大衆なんてこんなもんでしょ?キャラの一つの面かなと思います。

 

虐げられた存在の成り上がりと、そこでの自己の確立。そしてやがては神の導きを信じ、反省して心を入れ替えたはずだったが・・・。いや切ない。


どの話もメチャメチャ面白かった。
あくまで派生作品なのかもしれないけど、これアリなんじゃない?と思わせてくれる力作でした。ストラジンスキーって私が思ってたよりずっと凄い作家だったのか?(日本語版で出てる「ソー」3冊は読んでます)ダーウィン・クックと共にもっと読みたいと思わせるものがありました。

 

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