僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

ハーリーン

ハーリーン (DC BLACK LABEL)

HARLEEN
著:ステファン・セジク
刊:DC BLACCK LABEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2020年
収録:HARLEEN #1-3(2019)
☆☆☆☆☆

 

前途ある精神科医は、なぜ犯罪界の道化王子と恋に落ちたのか?

私が愛したジョーカー

『サンストーン』のステファン・セジクが紡ぐ最も危険な愛の物語

 

という事で「ハーリーン」。ヤバイ。メチャメチャ面白い。
ハーレイ・クインの生みの親、ポール・ディニが自らオリジンを描いた名作「バットマン:マッドラブ」は日本語版も装丁を変えて3度も刊行されている人気作です。おおまかな設定はそこを踏襲しつつ、新たに心理描写をより深く掘り下げ、ハーレイクインのオリジンを語り直したDCブラックレーベルの一編。

 

近年のハーレイはNEW52以降のオンゴーイング、映画や先日取り上げた「ブレイキングガラス」も含め、ジョーカーに依存しない独立した女性像みたいな所で人気を博していますが、今回はオリジンとしてまさしくジョーカーに依存していくその出会いを描く。

 

フェミニストは「男に依存する女」とか、もう弾圧すべき悪書でしかないのかもしれません。「ブレイキングガラス」みたいなものこそが正しい。確かにそうなのかもしれません。でもドラマとしてはこちらの「ハーリーン」がもう圧倒的なレベルで面白かった。

 

インテリな精神科医の30女が半ばジョーカーを利用してやろうと近づくも、やがてはその話術に魅了され、徐々に落ちていく姿が非常にサスペンスフルでハラハラさせられて凄く面白い。

 

「マッドラブ」だと割とバカ女っぽい感じもありましたけど、絵柄やノリも含めてあれはポップでキュートだから、それをリアルに痛いとはあまり感じなかったけど、今回は基本的にただのバカ女ではない形でリアルにハーレイの心理描写をしてる分、脆さや痛々しさの分かりみが読んでてすごくグッと来るし、恋に落ちた瞬間をこんなに上手く描けるものなのかと心底感心しました。

 

恋愛物、ラブロマンス物って私はそんなに好きなジャンルではないので、触れてきた数は少ない分、何百何千もの映画や漫画とか物語との比較とかは出来ないけど、正直今まで見たこと無いレベルで、恋に落ちる瞬間の面白さや切なさ、怖さみたいなものを読み取れて凄く引き込まれた。いや、逆にロマンス物とかあまり知らないから故なのか?この手のジャンルに強い人から見た時にこの心理描写はいかほどのレベルのものなのか
教えてほしい。私はこんなの今まで読んだ事無かった。

 

この人の代表作の「サンストーン」って読んで無かったのですが、それはレズビアンでSMのエロス物という、私にはあまり興味が無いジャンルだったからです。そもそもアメコミつってもスーパーヒーロー物でも無いですしね。

サンストーン vol.1 (G-NOVELS)


読んで無いので多分ですが、確か日本語版も5巻くらいまで出てましたっけ?やっぱり面白いからこそそんなに続刊が出てるんでしょうか。このレベルの心理描写のドラマなのだとしたら、凄く興味が湧いてきました。試しに1巻くらい読んでみようかな。

 

そしてやっぱり元のキャラを生かしてあるのは凄く強み。ジョーカーがハーレイを騙しているだけなのか、そこに少しはジョーカーの本心もあったのかが最後までわからない。


これがもしハーレイ側の視点のみで語られるのなら、ハーレイから見たらジョーカーはこう見えるんですよ、で済むんだけど、あえて第三者の視点を最後に入れてくる辺りもまた秀逸。

 

そこはトゥーフェイスを使って2面性の危うさを、サブテキスト或いはそこがテーマなんですよ的に入れてある構成の上手さもそうだし、バットマン、アルフレッド、その他有名スーパーヴィラン達の言葉を一つ一つ意味ありげに読ませる面白さ。


ジョーカーに騙されているのかもしれないハーレイの心理と同じように、作者に騙されているのかもしれない読者みたいな構造になっていて面白い。

 

あとはとにかく絵も凄くいいし、恋に落ちる瞬間、落ちてからのドキドキやトキメキ、そういうのもちゃんと絵が感情をより補足してある辺りがね、もうホントに秀逸と言うほかないです。それでいて「笑顔」という言葉一つで色々想像させるテキストの巧みさも兼ね備えている。


墜ちてはいけない沼に落ちる姿である事は間違いない。でもそんな危うさも含めてサイコサスペンス的なスリリングな面白さである半面、純粋な恋愛のトキメキが面白いと言う、今までに読んだ事の無い新鮮さで最高に面白い一冊でした。

 

ただやさしいだけの男より、危険な男にハマってしまう女の心理みたいなの、昔からよくあるじゃないですか?男の私には理解しずらい感情なのですが、そういうのわかるよって人ならさらに面白く読めちゃうのかも。

 

「マッドラブ」も名作ですが、より深いマッドなラブを描いたこちらの作品もとてつもない名作でした。

 

関連記事

curez.hatenablog.com

curez.hatenablog.com