BATMAN:HARLEY QUINN
著:ポール・ディニ、ダグ・アレキサンダー、ジェームズ・パトリック
マリス・ウィックス、ジム・ザブカビッチ、マット・キント(ライター)
イブル・ギチェット、ロニー・デル・カーメン、ロブ・ヘインズ
ドン・クレイマー、ジョー・キニョネス、ステファン・ルー、ニール・グージ(アーティスト)
訳:御代しおり
刊:MARVEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2016年
収録:BATMAN: HARLEY QUINN #1(1999)
BATMAN:GOTHAM KNIGHTS #14(2001) #30(2002)
DETECTIVE COMICS #831 #837(2007)
JOKER'S ASYLUM: HARLEY QUINN #1(2010)
BATMAN BLACK AND WHITE #1(2013) #3(2014)
LEGENDS OF THE DARK KNIGHT 100-PAGE SUPER SPECTACULAR #1(2014)
DETECTIVE COMICS #23.2(2013)
☆☆☆★
これぞハーレイ・クインの決定版!
オリジンストーリーやデビュー作などバラエティ豊かな全10編を収録!
たまにはDCの方の積み消化。刊行点数が多くなってからはマーベル優先になっちゃってますが、それでもDCの方も買って読んで無い積ん読が本も山ほどある。アンソロジー本はちょこちょこ読むのには良いのですが、感想書くのが大変なので簡単に行きます。
新スーサイドスクワッドの予告も出ましたが、今回は凄く面白そうで楽しみにしてます。ハーレイも旧コスチュームを彷彿とさせる赤黒コスで結構よさげですね。
予告だけでもう楽しい。
それはさておき、キャラ解説とかだと大体触れられてますので知ってる人も多いと思いますが、ハーレイ・クインはコミックではなくポール・ディニ制作の「バットマン・アニメイテッド・シリーズ」がデビュー。アニメオリジナルキャラだったものが、人気が出たのでコミックに逆輸入された、というキャラクター。
ジョーカーの情婦であり、迷惑なサイドキック的なポジションから、ポイズン・アイビーとの女ヴィランコンビなどの色もついていき、やがてはジョーカーを食うほどにまでその人気は留まる事を知らず、ハーレイ単体でも十分に魅力を発揮して、一人立ちするまでに至る、といった所でしょうか。この辺の遍歴もまた面白いキャラです。
映画でも最初の「スーサイドスクワッド」ではジョーカーありきのキャラとして描かれましたが、次の単独作ではもうジョーカーとの関係は終わった、という展開でしたし、「ワンダーウーマン」が女性ヒーローとして、そして女性の社会進出や自立の象徴として何十年もかけて時代と共にアイコン化していったのと比べて、ハーレイの現代的な女性の象徴としての変化はワンダーウーマンと比べると相当に短い期間で描かれてるのが面白い所。
今回収録されてるのは古いのが1999年から新しい方が2014年と、15年分の開きがありますが、いわゆるピエロコスチュームじゃないのは最後の1本のみ。映画の「スーサイドスクワッド」に合わせて出た本ですけど、基本的にはその前までのハーレイのデビューから一度目のリニューアルに至るまでの話が中心。そういう意味じゃ映画からハーレイに入った人にとってはあれこんなキャラだっけ?っていう感じはちょっとあるかも。
私がハーレイを知ったのって、やっぱり最初に日本語版が刊行された超名作の「マッドラブ」からです。その後に2度もリニューアルして発売されたくらい、ハーレイと言えばこれ!という名作中の名作。基本私は再販とかリニューアル版とかは買って無い方ですが、なんかマッドラブはついつい全部買ってしまう。
なのでね、今回収録されてる話は、私にとってはハーレイってやっぱこうだよな、という思いもあるのですが、これが予想外に、映画以降のハーレイもやっぱりそれはそれで魅力的だし、私はヒーローの時代性や社会性の象徴みたいな部分が特に興味を惹かれる要素でもあるので、自分にとって馴染みのあるハーレイよりも、社会的な今の時代のアイコンとしてリニューアルされたハーレイの、ひとつ前の時代はこんなだったな、という比較対象として見る面白さみたいな所が、自分でも予想外の感覚でした。
つってもね、コミックデビュー作のBATMAN: HARLEY QUINN #1(1999)の方でも、すでにジョーカーに追い出されてアイビーと出会うとこから始まってて、言う程男に依存する都合のいい女の描き方でも無いな、とも思ったし、それでいて押しかけ女房的なギャグっぽい面白さも、それはそれで引き継いでるし、なんか最初からハーレイの色々な面が描かれててなかなか興味深いなと。
捨てても捨てても、どんな酷い事をしても結局は戻ってくる、都合のよい女、みたいな存在でありながら、逆にそれを男の理想とかにせず、ハーレイの異常性みたいな風にも思えるし、なんとなくそこには批評性みたいな所が見え隠れする感じなのが面白い。勿論、描いてるライターや話にもよるけど。
そこはハーレイになる前の、ハーリーン・クインゼルという人が精神科医っていう設定が上手く生きてる。今回収録で個人的に一番面白かったのが「LEGENDS OF THE DARK KNIGHT 100-PAGE SUPER SPECTACULAR #1(2014)」って話で、ハーレイがバットマンに対して精神分析をする、というのがあって、何だかんだと一応最後はバットマンの方が上手だった、的なオチはつくものの、バットマンに対して、あんただって異常者だよねって、ちゃんとした分析を叩きつけられる辺りがハーレイらしくて面白い。
これがジョーカーだとね、おかしいのは世の中の方で、こんな狂った世界で正気を保てるお前らの方がよっぽど異常者なんだ、というのがジョーカーの本質なんですけど、ハーレイは元精神科医というのもあって、逆に冷静に分析した上であえてやってる感みたいなものがあって、決してただの女版ジョーカーではなく、ハーレイはハーレイなりのキャラクター性があって面白いな、という気がする。
アイビーとのレズビアン的な関係性もあれば、女性の自立みたいな流れで、アマゾン族の施設に入ってたりする話もあるし、ヴィラン、或いは女のヒーローだって、時に女の子のあこがれになる、みたいな話もあって、色々なアプローチが試されてるんだなってのと、オムニバス集として色々な方向性の話が読めるのはとても楽しい。
ハーレイ・クインの歴史を知るにはもってこいの一冊でした。
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今回紹介した方が先に出た本ですが「ハーレイ・クイン&バーズ・オブ・プレイ」とDetective Comics#831(2007)が収録作としては被りアリでした。