監督:小川孝治 脚本:成田良美
日本映画 2013年
☆☆☆☆☆☆
プリキュア映画14作目。オールスターズとしては5作目。TVシリーズ10作目「ドキドキプリキュア」春の新人研修映画。
前回の「NS1」より、リニューアルされたオールスターズシリーズの2作目。その前の「DX」シリーズがあくまでお祭りに徹していたものから、ストーリーやテーマ性のある映画にシフトチェンジ。新シリーズが始まったばかりの中で、キャラクターの成長や目に見える変化を描きにくい事から、映画用のメインとなる映画独自のキャラクターを置く事でストーリー性を持たせる、という新たな手法にたどり着いたのがNS1です。
普通の女の子の坂上あゆみちゃんが、劇中でプリキュアに出会い、そこからプリキュアとは何なのかを学び、成長して自らプリキュアになるまでが描かれました。あゆみちゃんは勿論、プリキュアを見ている女の子自身の投影とも言える存在で、「誰かを守りたい、そんなやさしい心があれば女の子は誰だってプリキュアになれる」というメタ要素を含む傑作で、私も大好きな作品です。
じゃあこちらの2作目は何を描くのか?今回はいつもプリキュアの隣に居る妖精ポジションの話です。
まずはプリキュアという作品には必ず出てくるマスコット的存在の「妖精」とはどういったものなのかの説明から始めます。
勿論、シリーズによって出てくる数や役割なんかは作品によりけりなので、全てに同じ事が当てはまるわけではありませんので、おおまかにこんな存在くらいの話です。そこはご理解願います。
まず、役割は違っても、プリキュアにはレギュラーキャラとして必ず出てくる存在。それは何故かと言えば、おもちゃの主力商品だからに他なりません。作品によって多少変わってくる部分はあっても、プリキュアのおもちゃ展開においては、「変身アイテム」が一番のメインアイテムで、その次にくるのがメイン妖精のギミックつきのおもちゃです。
作品によりけりですが、赤ちゃんのお世話遊びみたいな奴が多め。プリキュア以前、昭和の昔からごっこ遊びみたいな奴で、女の子の定番遊びとしてこの手の商品は多かったように思います。
プリキュアという存在はメインターゲットの未就学女児にとってはあこがれのお姉さんというような物として捉える傾向にあるようで、変身アイテムなんかも、携帯電話型だったり、コンパクトだったり、お母さんとか大人が持っているもので、自分も欲しいと思えるような物がモチーフに選ばれる傾向があります。(この辺もどっかで詳しく語りたい所ではあるのですが)そこもまた「あこがれ」なわけです。
それとは別に、妖精はとても幼い存在として描かれる事が多い。メインターゲットの女児にとっては「この子よりは私の方がお姉さんね」という優越感を刺激するように作られているわけです。大人から見たら、妖精ってたまにわがまますぎてうざったく感じられるようなケースもありますが、そういった理由がきちんとあるのです。
「スマイル」で言えばキャンディが幼く描かれてますが、それだとメルヘンランドの説明とかストーリー進行がやりにくいので、サブ妖精的にお兄ちゃんのポップが出てくる。ポップも普通のぬいぐるみくらいは出てたはずですが、メインのおもちゃとしては扱われていません。おもちゃ主導で作られたキャラのキャンディに対して、アニメの都合で後から作られたキャラなのがポップというのはわかりやすいと思います。
そういった事情もあって、プリキュアとその妖精というのは切っても切り離せないプリキュアという作品を構成する上で大事な要素になっています。
前回のNS1でオリジナルのプリキュアを描いたから、じゃあ今度は妖精の方にスポットライトを当ててみようか、というのは必然的な流れです。作中でも繰り返し「プリキュアと妖精はどちらかだけでは成立しないお互いをフォローし合う切っても切れない存在なんだ」と説明してくれます。
ただ商品うんぬんとかはあくまで1年間のTVシリーズでのお話。映画関連の商品も出ない事はないですけど、映画の妖精のおもちゃを出して売ろう、という企画先行では無いので、今回の映画ではそこは単純に作品の内容として、になります。(前回のキュアエコーも商品展開としてはあまり無かった)
という事で今回のNS2は映画用のキャラである妖精のエンエンとグレルがある種の主人公的な立ち位置として描かれます。
妖精学校に通っていて、プリキュアが大好きであこがれている引っ込み思案で泣き虫なエンエン。と、プリキュアなんかより自分を認めてほしいグレルの二人なのですが、とりあえずグレルは置いといてエンエンについて。
作り手の意図としては単純にプリキュアという作品を構成する上での妖精にスポットライトを当てただけなのかなとは思うし、プリキュアが憧れのお姉さんだとして、今回の妖精はメインターゲットの年齢層が自分を投影できる存在として描いているのはわかるのですが、作り手の意図しないであろう読み方として、プリキュアにはなれないけど、プリキュアに寄り添ってその隣に居たい「男の子」の方に視点を当てた作品として見る事も出来るのです。
もっと単純に言えばエンエンを「プリオタ」と見立てる事も出来る作品になってたりする。(あくまで勝手な見立てであって、作り手はそこを裏テーマとしては作って無いですよ)これ、プリキュアおじさんとして、響かないはずが無いのです。
大好きな作品なので、もう何度も見てますが、毎回「エンエンは俺だ、俺はエンエンなんだ!」とか言ってしまいたくなるくらい感情移入して見ちゃって、毎回泣く。
勿論、今のプリオタとしての自分もそうですが、子供の頃は私はいじめられっ子でしたので、そこで更に昔の自分を重ねてしまって、感情移入度さらに倍。
他の映画感想でも書いた事ありますけど、泣き虫で弱い子が一握りの勇気を振り絞る、というのは私の心の琴線を刺激する好きな映画ストーリーパターンの一つ。
でね、泣いてるエンエンに対してロゼッタが言う訳ですよ。
「泣いている自分は好き?嫌い?」
「嫌い」
「じゃああなたはどんな自分になりたいですか?」
「僕はキュアハッピーみたいに笑いたい」
うん、これ俺じゃん。私は一番好きなプリキュアは色々な思い入れも含めてキュアハッピーなのですが、この作品も含めて今でも特別な存在。
キュアハッピー/星空みゆき役の福圓美里もインタビューで言ってたのですが、自分は元々色々な事に斜に構える部分があって、でもそれは決して悪い事では無く、自分のキャラクターみたいなものだと思ってた部分もあったけど、キュアハッピーを演じた事で、真っすぐで純粋な気持ちとか、ポジティブな事を口にするって大切なんだなと思った、的な事を言っててそこもね、物凄く共感できたのでした。
「スマイル」で、始めて本格的にプリキュアの世界に触れてみて、子供向けのアニメでもこんなに面白いんだなと思えたし、子供向けアニメだからこそのものがやっぱりそこにあって、それこそがプリキュアという作品の価値なんだと思えた。
今は泣き虫ではなくなったけど(映画見てしょっちゅう泣いてますが)捻くれてもはや歪み切って皮肉屋になって単純な笑顔なんて無くなってしまった自分に、そうじゃないよとプリキュアは言ってくれた。
私はエンエンでもあり、キュアハッピーでもあり福圓美里なんだと。
うん、もうこれ訳わかんねぇよ。
でも私にとっていかに特別な作品であるかがわかっていただけたでしょうか。作品に触れた背景、作品のテーマ、作品の伝えたい事や描いている事、その中にあるちょっとした描写やセリフ。色々な物が重なって、特別な作品になってます。プリキュア映画は他にも良い作品面白い作品いっぱいありますが、事「思い入れ」という面に関しては、この「NS2」に並ぶ作品はありません。
映画はなるべく客観的な視点でその良し悪しを語りたい半面、個人的な思い入れ、パーソナルな部分も絶対あってそれは切っても切り離せないものですし、そこもまた面白さだと思っているので、結局は客観も主観もそのどちらも両方必要なものです。
始めて映画館で「スマイル」の映画を見て、プリキュアの映画ってこんな感じなのかな?と思った次にこの「NS2」を見て思いっきり感情を揺さぶられて、プリキュア映画凄くないか?と思えたのも大きかった。
ソフトの映像特典として、他のプリキュア映画には無い福圓さんとキュアハート/相田マナ役の生天目仁美さんの対談が割と長尺で入ってたりするのですが(これ毎年の定番コンテンツにしてほしかった)そこで二人ともプリキュアに対する思い入れをたっぷり語っていたりして、以前に紹介した「スマイルプリキュアコンプリートファンブック」も含めて、スマイル以降はプリキュアのメディアに対する露出度も一気に増えた。
「ドキドキ」がプリキュア10年目に突入のタイミングもあって、「プリキュア新聞」もこの映画の時から始まりましたし、始めてハマったプリキュアから、丁度良く作り手側の意図なんかも詳しく知れたりする機会が増えて、たまたまながら、もの凄く良いタイミングで私はプリキュアに入れたんだなと、非常に感慨深いものがあります。
初めてこの作品を見た時は、まだ全部のシリーズを観終わって無かった気がしますが、全部制覇した後だと、もうこのシーンだけでも映画の価値あるんじゃないか?と思えるキュアパッション&キュアビートのコンビの「大丈夫、何度だってやりなおせるわ」は涙無くして見られない超絶名シーンですし、序盤のスマイルチームの必殺技が簡単に破られていくシーンとか見ていて面白いし、初代のブラックの踏ん張りを入れたパンチに巨大な敵を投げ飛ばしてしまうホワイトのあれとか、見所も盛りだくさん。
ポップが活躍するのもカッコいいし、優秀なドキドキの新人離れ感、「直球勝負上等!」で主題歌がかぶるマーチの圧倒的なカッコよさ、ピースとソードのやりとり、相変わらずのマリンのコメディリリーフとしての登板、気合いを入れるタルトに、エンエンだけでなくグレルもまたカッコ良かったりと、見所盛りだくさんです。
1カットだけだけど、友達とパンパカパンの前を歩いてるあゆみちゃんも外せません。
プリキュア映画はどの作品も何度か見返してますが、これと「ハピネスチャージ」が回数的には圧倒的に多い。次は割と新しめの「オールスターズメモリーズ」かな?
とまあそんな感じで思い入れたっぷりに語らせていただきました。
テンション上がるわ!
次は「ドキドキ」のミュージカル版です。
映画『プリキュアオールスターズ NewStage2 こころのともだち』予告
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