SECRET EMPIRE 2
著:ニック・スペンサー(ライター)
アンドレア・ソレンティーノ、レイニル・ユー、ヘスス・サイス、
ダニエル・アクーナ、スティーブ・マクニーブン(アーティスト)
訳:秋友克也
刊:MARVEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2020 全2巻
収録:SECRET EMPIRE #5-10(2017)
CAPTAIN AMERICA v8 #25(2017)
SECRET EMPIRE OMEGA(2017)
☆☆☆☆★
アメリカは誰の手に!?
ハイドラの支配に挑むヒーロー達、
最後に勝利するのは正義か悪か!?
という事でクロスオーバー大作「シークレット・エンパイア」完結編です。
の前に一応、小プロの独占契約の事から書いていこうかな。2020年よりMARVELの日本語邦訳版が小プロとの独占契約を結んで、他社からは出なくなる事が発表されてます。その契約より先に契約していたタイトルは出せるみたいで、ヴィレッジからは次の「ワスプ」の2巻とその後の「スパイダーゲドン」で多分打ち止めっぽい。
まだ未発表だったものとかもあるかもしれませんが、スパイダーゲドンが一気に2冊(+おまけつきのセット版もあり)同時発売なので、多分終わりでしょう。増刷も出来ないようですので、既刊も店頭在庫の販売分で終了という事のようです。
日本語版アメコミは主に小プロ(小学館集英社プロダクション)とヴィレッジブックスの2社から出ていて、マーベルのメインのストーリーラインはヴィレッジの方から出てました。
ネットで見てても意外と知らない人が居たっぽいのでそこも説明しておくと(という事は近年になってからアメコミ邦訳を読むようになった人も多いって事ですよね。そこは嬉しい)日本語アメコミ界の重鎮、石川裕人さんが90年代はマーベルの日本の窓口みたいな事をやってました。その時代のX-MENの小プロ版とかアニメも石川さんが企画として動いてたと。ただ、後期の2000年代くらいになると邦訳アメコミが全然売れなくなっちゃって、小プロからはもうストップがかかって出せなくなった。
凄いアメコミマニアの人なので、それでも何とか続けたいと、個人の会社を設立して、少しの間ジャイブという所から出して、その後にヴィレッジブックスへ移行して今に至った、という経緯があります。小プロもしばらくは休止してたんですが、その後にまた邦訳アメコミを再開して、今みたいに小プロとヴィレッジの2社からそれぞれタイトル事に、あっちから出たりこっちから出たり、みたいな競い合う感じになったというのがこれまでの流れ。
これ、どうやって出すタイトルを選んでるんだろう?そんなに広い業界じゃないだろうし、一応は元居た所だから、残ってる人が居て石川さんと話してこのタイトルはウチで出すけど、そっちのラインはやらないのでどうぞ、とかやってるのかなぁ?とか想像してたんですが、出版社が違えばやっぱり競合相手になってたんでしょうね。そりゃあ話題作で売れる見込みのあるタイトルはお互いに欲しいわな。小学館集英社の方が会社としての規模は当然大きいので、ここに来て独占契約を結んじゃったと。
価格帯はいくらかは小プロの方が安めだったりするので、買う方としてはありがたいのですが、やっぱりマニアが選んでる採算ギリギリでも出す、みたいな方がラインナップとしては嬉しかったりしたので(通販限定にして過去の名作を出す「マーベル・マストリード」シリーズとか「シビルウォー」タイイン誌全部出すとか、普通の商売ではやらない事をやってくれるのがヴィレッジの凄い所でしたし、面白かった。私も全部買いましたし)小プロオンリーになっちゃって、この先どうなるのかな?という心配もあります。小プロも小プロでたまにクラシックな物とかも出てはいるんですけどね。
ただ、今後永久的に小プロからしかマーベルは出ないって事ではなく、普通に考えると会社間の契約なので、1年とか2年とかのスパンで契約を更新するかとかはあるでしょうし、日本語アメコミなんてぶっちゃけそこまで売れるものでもなく、出版社的に決しておいしいものではないでしょうから、そこまで悲観的にはならなくても良いのかなと。だって今現在は日本の漫画版として集英社が日本の作家にマーベルタイトルを描かせたりしてるけど、ちょっと前にはアベンジャーズとストレンジとかガーディアンズを講談社で日本の漫画家がやってた奴とかありましたしね。多分そんな感じなのではないのかなぁと勝手に思ってます。
小プロも2年分くらいのラインナップ発表したけど、その先どうなるかはわかんないんじゃないのかな。そもそもこの「シークレットエンパイア」だって元は2017年に発売されてるものですし、日本語版アメコミは4~5年遅いなんてザラです。小プロとの独占契約が切れたら、またヴィレッジにはマニアックなタイトルをガンガン出してほしいし、その間の溜めの期間にしてほしい・・・というまあ勝手な願望です。仕事として働いてる方からすれば、おいおいそんな流暢な事を言ってられる状況じゃねーぞっていうのはあると思いますけれど。
という長い前置きはここまでにして、シークレットエンパイア完結編です。
「エンドゲーム」で、ハイルヒドラのネタをやってましたが、何気にそこだけじゃ無かったんですね。実はこれ、結構エンドゲームの元ネタっぽくないですか?窮地に追い込まれたヒーロー達が再起をかけるっていう流れもそうだし、え?ナターシャそうなるの?っていうのも知らなかったので、エンドゲームって結構この作品を参考にしてる部分もあったのかなぁというのが一番の印象。
このシークレットエンパイアが2017年でインフィニティ・ウォーが2018年のエンドゲームが2019年ですから、おそらくはタイム泥棒とかおおまかな構成とかは脚本の第1稿として映画独自の脚本として描いてるだろうけど、枝葉の部分とか細かいディティールは現行のシリーズを見ながら足したのかな?じゃないとハイルヒドラのセリフは入れませんよね。それとも映画の脚本とかはマーベル内部でも共有されてて、そこと原作も合わせた流れにしよう、みたいなのあったんでしょうか。共通する部分がなかなかに面白い。
コービックが見せる心象風景として、やっぱりキャップにとってバッキーとサムが特別な親友であって、そして心から愛した存在がシャロンなんだなぁと思えて感慨深いです。(トニーは出てこないのね)
そこだけでなく現実の部分でもバッキーとサムは大きい役割を果たしますし、かつバッキーの手を掴めなかったキャップが今回は遂に、っていうのが本当にグッと来ました。
これね、サム・ライミ版の「スパイダーマン」であのつり橋で原作では掴めなかったグエン・ステイシーの手のかわりに映画ではMJの手を掴むっていうシーンあるんですよね、あの辺に近いものを感じて凄く良かった。
で、サムはサムで現行のキャプテン・アメリカとして、一度はその重みに耐えきれずにコスチュームを脱いでしまうけど、今必要なのはキャプテン・アメリカという存在なんだと、皆を鼓舞させる為にと演説をするシーンも本当に良いです。
キューブの破片集めとか、タイインの方で描かれてるようで、え?そっちの話はそんなに重要じゃなかったんだ?とかキャップを暗殺する為に離脱したナターシャについていったチャンピオンズの連中とかも、マイルス君のフラグ回収の為だけだったんじゃねーか、とかタイイン読まないと雑に思える部分も結構ありますが、それでもオーディンソン(ソー)、スコット・ラング、パニッシャー、ホークアイのそれぞれの葛藤とかも、1シーンぐらいずつしか描かれてはいないものの、おっ!?と思わせるシーンが各キャラにあって満足度は高いです。ハイドラアベンジャーズのブラックアントとタスクマスターの下りもらしくて面白いし。
トニー(のAI)とかキャロルも何気にシビルウォーをずっと引きずってたんだなぁとか知る事も出来ましたし、描写はきっとタイイン込みなんだろうけど、ネイモア、ブラックパンサーと後はエマとビースト率いるミュータント勢とかの他の勢力のそれぞれの立場での葛藤もありましたし、全体的なテーマとしてヒーローの再起みたいな所がテーマになってるのも見応えがあって好きでした。
邦訳でメインの柱として描かれたニューアベンジャーズ1期の頃の、悪が支配するダークレイン期を経てのヒーロー再生の物語、ヒロイックエイジみたいなものの再度繰り返しみたいな面はあるものの、やっぱりヒーローが何故ヒーローなのか、そしてそれが何故必要なのか、みたいなテーマはやっぱり好きです。そういう所が読みたくてヒーロー物を読んでるんですし。
そして最後のハイドラキャップVSキャップですよ。忘れるな、大衆こそが強い英雄を望んだんだっていうのがね、解説書にはトランプ政権の事でしょって書いてありますし、そこは実際にあるとして、でもそこだけでも無いと思うんですよね。誰か絶対的に強い存在が居て、それに導いてもらう心地良さってわかりますもの。そしてそういう世論って絶対にありますよね。
マーベルユニバースで言えば、そこはやっぱりキャップこそが!とついつい思ってしまう自分も居ます。でも「ワンダーウーマン1984」でもやってたけど、そこはただの象徴や理想でしか無いんだ、そこを指標にするのはいいけど、本当に大切な事は自分で考え、自分の足で立つ事なんだよ、今こそ一人一人がちゃんと考えて、皆がヒーローになるべきだ、ていう締めはありきたりではあるものの、とても好きな終わり方でした。
次のイベントタイトルって何でしたっけ?小プロのラインナップにも無いっぽいですし、しばらくはアベンジャーズのメインのラインはここまでっていう感じになるのかな?「ニューアベンジャーズ」からよくぞここまでやってくれました。いつか再開する事を夢見て、とりあえずはありがとう&あいしてるで締めたいと思います。
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