僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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スパイダーマン:ライフストーリー

スパイダーマン:ライフストーリー (ShoPro Books)

SPIDER-MAN: LIFE STORY
著:チップ・ズダースキー(作)
 マーク・バグリー(画)
訳:高木亮
刊:MARVEL 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2020年
収録:SPIDER-MAN: LIFE STORY #1-6(2019)
☆☆☆☆☆


スパイダーマン史上最高傑作との予備越えた甲斐話題作が堂々刊行!
スパイダーマン激動の生涯

彼が誕生した1962年から2019年まで
実際の時の流れと共に老いていく
スパイディの物語

 

昨年末に出た邦訳新刊。何十年も同じキャラクターを使っているので、基本的にはあまり歳をとらないのがアメコミ。いわゆる十代の少年少女が20年とかかけてある程度一人前になるくらいにはゆるやかに時間も流れているものの現行のユニバースでもピーター・パーカーはせいぜい20代後半くらいのはず。

 

そこを既存の世界とは別の独自設定の読み切りとして、もし、リアルタイムで時間が進行していたら?を描いた特別編。

1960年代から2010年代までの年老いて行くスパイダーマンを、オリジナルのシリーズなどであったイベントをアレンジして描いてある。

 

スパイダーマンと言えば今や有名になった「大いなる力には大いなる責任が伴う」というテーマを、マーベル世界全体の問題として、超人的な能力は世界に対してどういった向き合い方をしていくべきものなのか?として描いてある。

 

まず1話目の60年代。年齢的にはオリジナルとの差は無いものの、いきなり「ベトナム戦争」というテーマを軸に描かれる。

元からある設定ですが、ピーターの同級生でかつてはイジメる側であったフラッシュ・トンプソン。スパイダーマンの大ファンで、自分の力は正しい事の為に使うべきだとスパイダーマンに影響を受け、自らベトナム行きを志願。オリジナルだとそこで両足を失う怪我を負ってしまい、もっと後になってからですが、ベノムの力で歩けるようになって、更にはアンチベノムとしてスパイダーマンの味方になる。

 

が、こちらではベトナムでそのまま戦死。ピーターは、その道筋を作ったのは自分では無いのか?自分もまた自国の為に戦争に参加すべきか?と悩む。

 

大いなる力には大いなる責任が伴う。街の犯罪を取り締まるだけで本当にいいのか?国の為に戦うのが自分の力の「責任」なのかと。

 

アイアンマンは戦争に兵士として参加。自分の信じる道を行けばいいとアドバイスしてくれたキャプテンアメリカは、戦地に赴くも、米国兵士もベトナム人も両方を救う道を選ぶ。

 

う~ん、いきなり重い。でも凄くアメコミらしい部分でもあり面白い。正規のストーリーとかでなく、同じようにifストーリーでいいから、日本でもこういうのやってほしいなと思います。マイナーな物を探せばありそうだけれども。

 

DCの「ウォッチメン」でもドクターマンハッタンがベトナムに介入して勝利、みたいなのありましたが、次章の70年代編を読むと、現実ではアメリカが退却していた年よりも、更に後までベトナム戦争が続いていた事がわかる。スーパーヒーローが介入した事で、より戦争は長引いたと。戦争と言う物にヒーローはどう向き合うべきなのか?

 

結局、ピーターは戦争に介入する事はしなかったものの、激闘を繰り広げたグリーンゴブリンを刑務所送りにした事で、ノーマン・オズボーンと息子のハリーの人生を狂わせてしまう。自分の行いが世間を救う反面、同時に不幸になる人も出てくる。これも大いなる責任なのか。

 

科学者として、この世界ではすでに解散したらしいファンタスティック・フォー
リード・リチャーズの元で働くピーター。天才科学者でもあるリードは、自分のコスチュームで自在に伸び縮みする素材を開発していたが、それはアパレル業界にも革新をもたらすのでは?とリードに尋ねる。しかしリードはそれでは服飾産業で食べている人達の職も奪う事になると、そこへの介入はしない理由を述べる。

 

科学技術も大いなる力であり、世間に対して安易に介入すべきでは無い、というのがリードなりの責任との向き合い方だったと。う~ん面白い。

 

この時はすでにグエン・ステーシーと結婚していたピーターだったが、ハリーはブラック・ゴブリンを名乗り父と自分の人生をメチャメチャにしてしまったと復讐に現れ、またノーマンもウォーレン教授を使いピーターのクローンを作り出していた。

 

自らの欲望のため、ウォーレンもグエンのクローンまで作り出していた事が明らかになり、暴走の顛末の後、本物のグエンは死に、ピーターとグエンのクローンは別の道を歩むと旅立っていく。

 

時は流れ、80年代。互いに傷心だったピーターとMJは結ばれ、二人の子供が生まれていたものの、シークレット・ウォーズ事件や、復活したゴブリンやドクター・オクトパス、ベノムを纏ったクレイブン・ザ・ハンターとのライバルとの死闘の中、家族よりもスパイダーマンの使命を優先していた事から、MJとのすれ違いで疲弊していく。ここもまた家族と世界のどちらをとるのか?という部分。

 

そして90年代は悪名高いクローン・サーガ事件もフォロー。クローンサーガは日本語版出て無いので詳しい事は知りませんが、当時から散々言われてた情報から判断するに、マンネリ脱却の為のリニューアルとして、今まで読んできたピータ・パーカーの方が実はクローンで、クローンと思われてきたベン・ライリーの方が本物だったんですよ!という長年のファンを逆なでするストーリーで、そりゃ炎上するわな、という話。

 

結局は評判があまりにも悪くて、元の状態に戻っちゃったわけですが、そういう歴史までとりこんである辺りがなかなか面白い。

 

次の00年代。ベン・ライリーにスパイダーマンの役割を譲ったピーターはやっと家族の元へ。インヘリターズの襲来(スパイダーバース)、9・11、そしてシビルウォー。と、体力的に衰えてきている事は自覚しつつも、スパイダーマンである事の宿命からは逃れられないピーター。

 

遂に最終章の10年代。スーペリア・スパイダーマンのネタも入れつつ、初老に差し掛かったスパイダーマンは最後の任務へ。ベノム(中身はクレイブン)との最後の死闘、自分の命をかけても世界を守るべく、その責任を果たそうとする。

 

波乱に満ち、浮き沈みもあったピーター・パーカーの人生は、大いなる力に呪われた不幸な一生だったのか?特別な力を受け継いだ二人の子供が居る。そしてスパイダーマンの名前を受け継ぐ、マイルス・モラレスとも最後に出会えた。

 

「大いなる力には大いなる責任が伴う」
後悔しても取り返しのつかない過ちから始まったピーター・パーカーの物語は、こうして希望を繋いだのだ。正しい生き方かどうかはわからない。何度も悩んで、後悔もしてきたけれど、それはきっと悪い事じゃ無い。スパイダーマンはこうして最後まで学んだのだ、的なストーリーがホントに素晴らしい。

 

こうやって単発で読めるストーリーはどちらかと言えば昔からDCの方が強いイメージもありますが、これを読むとやっぱりマーベルらしい部分もふんだんにあって凄く良かった。名作。

 

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