僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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シルバーサーファー:ブラック

シルバーサーファー:ブラック

SILVER SURFER:BLACK
著:ドニー・ケイツ(作)
 トラッド・ムーア(画)
訳:秋友克也
刊:MARVEL 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2021年
収録:SILVER SURFER:BLACK #1-5(2019)
☆☆☆☆☆


私は深淵を照らす光……
影に呑み込まれ……暗黒に圧倒されても……火を灯し、輝く

惑星の破壊者ギャラクタスのヘラルド(先触れ)として、幾多の星々の死を見届けてきたシルバーサーファー。時間を超越した闇をさまよった末、黎明期の宇宙に辿り着いた彼は、暗黒の中心で邪神ヌールと対峙する。パワー・コズミックが衰え、肉体が黒く蝕まれてゆく中、シルバーサーファーは彼を暗黒へと堕落させようと迫る邪神に打ち勝つことができるのか? 自らの内なる闇との闘いを通して、シルバーサーファーが見出した光とは……。

ドニーケイツとトラッド・ムーアが紡ぎ出す新たな旅路によって、シルバーサーファーが永遠の変貌を遂げる衝撃の問題作!

 

同時に出た「サノス:ウィンズ」と先日出たばかりの新刊「アブソリュート・カネーイジ」が今回の脚本と同じ、ドニー・ケイツ作という事で、いわゆる押し作家月刊という感じでのラインナップのようです。私は読んだ事無い作家で、今回が初めてでとても面白かったので他のも読むのが楽しみになってきました。

 

とりあえずそんな作家の話の前に「シルバーサーファー」というキャラクターについて。映画「ファンタスティックフォー:銀河の危機」にも出てましたし、その元となったFF誌が初出で、ギャラクタスの部下というのが最初からの位置付け。

 

ストーリー的には、地球人に触れ、正義の心に目覚めて悪のボスの元を離れてヒーローとして覚醒するっていう、とてもわかりやすいしグッと来る設定ではありますが、容姿が銀色一色でサーフボードに乗っているツルっとした宇宙人って、なかなか日本人の感覚で言うと単純にカッコいいとは思いにくいデザインですよね。

 

でも本国ではそれなりに人気のあるキャラ。まあ、ギャラクタスの初出エピソードがやっぱり物凄いインパクトがあって、その流れもあるのかなとは思いますが。(映画のFFも1作目でライバルのドゥームを描いて、2作目でそこをやったわけですし)その後もコズミッククラスの力を持つヒーローとして要所要所で出てくるマーベルユニバース界においてもそれなりに重要で人気のあるキャラです。日本語版も通販限定のマーベル・マイルストーンとして出た「ファンタスティック・フォー:カミング・オブ・ギャラクタス」としてそこは読めたりします。更に言えばもっと昔に光文社で出てた単行本もそこは入ってました。

 

単純に見た目だけだとペプシマン?とか言われがちですが、宇宙の未知なる存在的なものを思わせてくれるシンプルだけどミステリアスさも感じさせる容姿とか、或いはサーフボードに乗って空を滑空するというのが中二心を刺激するとかいうのも人気が出た要因としてあるのかなとも思うし、わからないなりに面白い存在だとは思えますね。

 

フランスコミックのバンドデシネの超大物、メビウスなんかもその浮遊感がお気に入りだったようで、メビウスに作画をお願いして脚本をスタン・リーが描いた「シルバーサーファー:パラブル」も面白いので、いずれ読み返してブログに載せたい所。

 

あと、本編とは全く関係無いし、完全にソースが明確にされてない話ですが、「東映スパイダーマン」「バトルフィーバーJ」「デンジマン」辺りで東映とマーベルが提携していた時期に、「シルバーサーファー」も実写化の企画があって、結局はお蔵入りになったものの、その企画を再利用したものが後の「宇宙刑事ギャバン」になった可能性があると一部では言われてたりしますね。宇宙を守る銀色の戦士って部分では確かに共通しているし、ギャバンの設定上は特に意味があるのかわからないサイドカー付きの専用バイク(?)サイバリアンに立ち乗りするのはその名残りなんじゃないか?とか言われると、え?確かにそうかも?とかついつい思っちゃいます。その「ギャバン」が「ロボコップ」になって、そこから再輸入で「ジバン」になったりその辺も面白い流れがありますが、まあ今回はシルバーサーファーの話ですのでそこは別の機会にでも。

 

といった前置きはここまでにして、こっからは今回の作品の感想。
盟友ベータ・レイ・ビルらの危機を救う為にコズミックパワーを限界まで使い果たしたサーファーはタキオンの渦に巻き込まれ、宇宙誕生以前の原始にまで遡る。そこに居たのは後のヴェノムの誕生に繋がるシンビオートの群れと、そこに王として君臨する邪神ヌールだった、的な話。

 

光の象徴としての白銀のサーファーと、黒であり闇であり影そのものでもあるヌールとの対立ってなかなか面白いアイデアです。物事の光と闇の対峙。

 

普通のヒーロー物なら単純に光で闇を照らすんだってなるか、あるいはそうでない場合だと陰陽みたいにその拮抗したバランスが世界なんだって感じになりがちですが、今回は、闇は全てを飲み込み全てを塗りつぶしていくけど、光は灯さなければならないもの、という描き方がしてあって、この手のテーマの話でもなかなかお目にかかれない斬新だけど、言われてみると確かにそうだって納得させられるテーマの描き方になってて、物凄く新鮮。

 

「光と闇」という世界中のありとあらゆる分野の物語で何百何億と繰り返し語られてきたテーマを、こういう視点もあったのかと今更驚かされるのは正直凄い。もしかしたら物語に精通してる人なら、この考え方は前にもこんな作品があったよ~なんていうのあるのかもしれませんが、私は初めて読んだパターンで結構驚かされたしとても新鮮でした。

 

物理的にも、現実としては太陽があるから光は射すわけで、その太陽と言う外部的なものがなければ光って無いわけですよね。じゃあそんな太陽が存在しない世界で、サーファーが光を灯すには、自分が太陽、あるいはビッグバン的な光の誕生を作らなければならない。自分自身が内なる宇宙であり、宇宙その物を自分の中で形成する。

 

魔法少女まどかマギカ」で語られたエントロピーの法則を凌駕する人間の精神性みたいな所にも通じますし、外敵として闇の化身であるヌールにも立ち向かいながら、自身の闇に蝕まれ続けて行く体の中で、内なる闇とも向き合うというまさに満身創痍、絶望の中でも諦めようとしないその精神性にまさしくヒーローとしての姿がある。

 

ノローグ多めで、その内容も割と哲学的な感じでなかなかにハードでまさしく重厚な物語ですが、メチャメチャ面白かった。

 

そして本書のもう一つの大きな売りである、まさしく鬼才アーティストと呼ぶべきトラッド・ムーアの超絶サイケデリックなアート。こちらも相当に凄い。

 

アメコミって定期的にこういう、今まで見た事の無いアートを描く才能って出て来ますよね。ジム・ステランコだったりビル・シンケビッチだったりデイブ・マッキーンだったり、マイク・ミニョーラだったり、アレックス・ロスだったり。あとは個人的にジェイ・リーとかトラビス・チャレストとかクリス・バチャロも最初観た時は凄く衝撃を受けました。

 

この感覚って日本の漫画だと全く無いとは言いませんが、今まで見たた事の無い絵に衝撃を受けるってあんまり無い気がする。これがBDならまだありそうだし、こういう斬新なアートって、絵としては彩色ありきのフルカラーっていうのが大きいのかも?荒木飛呂彦だって、独特の色彩感覚こそが斬新だった気がするし。

 

でも今回面白かったのは、絵が凄いからイラスト集感覚で見てね、っていうのでは決して無くて、観た事の無い斬新な絵に抜群に面白いストーリーでした。それでいて、ベータ・レイ・ビルにヴェノムの元である邪神ヌールにウォッチャーにギャラクタスになる前のギャランだったり、果てはエゴ・ザ・リビングプラネットとか、因縁故に納得出来たり、こいつが出るとは!という驚きもありで非常に面白かった。その上ですよ、スタン・リーへのリスペクトまであり。

 

へぇ~、今度はシルバーサーファーの1冊が出るのか。割と珍しい方だな、ジェフ・ローブティム・セイルのカラーシリーズとは関係ないんだよね?ぐらいの感覚で読んだだけなんですが、もうメチャメチャ面白い1冊でした。

 

正直あんまり売れ無さそうな本ですが、こういう面白い物をちゃんと日本語版で紹介してくれるのは本当にありがたいです。高いけど、こういう出会いがあるとやっぱアメコミ面白いなと思わせてくれます。

 

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