BATMAN: NO MAN'S LAND VOLUME 1
著:ボブ・ゲイル、デニス・J・オニール、デビン・グレイソン
イエン・エジントン、グレッグ・ルッカ、スコット・ビーティ
リサ・クリンク、ケリー・バケット(作)
アレックス・マリーブ、ロジャー・ロビンソン、デイル・イーグルズハム、
ディズレーリ、フランク・テラン、ジェイソン・ビアソン、
ダミオン・スコット、クリス・ルノー、ガイ・デイビス
ジョン・ボグダノフ、フィル・ウィンスレイド(画)
訳:高木亮
刊:DC COMICS 小学館集英社プロダクション ShoProBooks 全4巻
アメコミ 2014年
収録:Batman: No Man's Land #1
Batman: Shadow of the Bat #83-86
Batman #563-566
Detective Comics #730-733
Batman Chronicles #16
Azrael: Agent of the Bat #51-55
Batman: Legends of the Dark Knight #117-118(1999)
☆☆☆☆
伝説を、目撃せよ!
ライフラインを断たれ、無法地帯と化したゴッサムシティ。
その時、市民は……ヒーローは……そしてヴィランは……?
バットマン史上に燦然と輝く名作シリーズ、刊行開始!
正義の戦いは終わり、生存競争が始まった!伝染病に大震災……災厄の続くゴッサムシティに、残酷な決断が下される。アメリカ政府がゴッサムシティを再建不可能と認定したのだ。アメリカの汚点だった犯罪都市を本土から切り離すことで、存在そのものを抹殺しようと考えた政府。こうしてゴッサムシティは本土から隔離され、もはや合衆国の領土とはみなされず、そこに残った人々もアメリカ国民としての資格を剥奪される形となった。いまやこの不毛な大地に住んでいるのは、自らの意志でここに残った者と、残らざるをえなかった者だけ。そして3ヶ月が過ぎた……。ゴッサムシティはもはや存在しない。“無人の大地(ノーマンズ・ランド)”にようこそ。
圧倒的なスケールで描かれ、映画『ダークナイト ライジング』の原作のひとつにもなった記念碑的作品、堂々の刊行スタート!
入院のおかげで時間が出来たので、長らく放置していた大物に手を出す。
450ページと辞書並みに厚い本が全4冊。バットマンの90年代の超大作「ノーマンズランド」を超絶ボリュームで刊行。
伝染病や大地震と災厄が続き、再建は不可能と判断され、アメリカはゴッサムの自治権を放棄。無法地帯と化したゴッサムを舞台に、バットマン系列タイトルの全てを巻き込み、1年間展開された大型クロスオーバーシリーズ。
1999年に刊行されたシリーズですので、今となっては旧シリーズという扱いになっちゃいますが、この展開をif物、エルスワールドとして別設定でやるのではなく、本シリーズでやったのは凄い。だって今まで慣れ親しんできたゴッサムが崩壊しちゃってマッドマックスみたいな世界になっちゃうんですよ?正史として。ようやるわ。
1999年ですし、世紀末感みたいなものも作品に重なって上手く世相とリンクしたんでしょうか?
最初の3カ月はバットマン不在で、ゴードンらを始め、ゴッサム市警が何とか一般市民を守ろうと頑張ってくれてます。勿論、治外法権となってしまったゴッサムに置いてはいくら元警官であろうと、この地に置いては国家権力の効力など存在しない。自警団という位置付けにしかならない。
そういう意味では自警団=ヴィジランテであるバットマンとゴードンもこの地では同じような存在になっている、という辺りが面白味。
アメリカがこの地を放棄するに至るまでに、事前の避難勧告は当然あって、出て行く人は出て行ってはいるものの、貧困層や不法移民者、犯罪者等、街から出られず、やむをえずここで暮らしてる人もそれなりの数は居ると。ゴッサム市警の有志はそれらの人々を守るために、この地に残った。
そこら辺の話もいくつかエピソードが入ってて、人間の倫理・モラルみたいなものを問うような話も多く、そこはとても面白い。
バットファミリーはこの時点では、オラクル、ハントレス、アズラエルらが独自の行動を開始し、さらにはバーバラではない謎の新バットガールもここで登場。ロビンとナイトウイングはバットマンの指示により、現状はゴッサムには居ない。
ヴィランは、ジョーカーとかトゥーフェイスは顔見せ程度。次巻以降なので、今回はペンギン、スケアクロウ、スカーフェイス、ブラックマスク辺りが話に絡む。
個人的な注目ポイントはアズラエル。ロビンとか増えまくったのもあってか、最近はあまりバットファミリーの一員って感じはしないけど、邦訳読みにとってはアズにゃんは割と重要。
小プロのアメコミ邦訳がスタートした初期に出た「バットマン/パニッシャー」で、バットマンの中に入ってたのがアズにゃんことアズラエルでした。ブルースがベインに背骨を折られ、休業状態に追い込まれた時に、代理としてアズラエルがバットマンの中に入ってた時期の話でした。
マーベルとDCで会社違うのにクロスオーバーとかあるのか!っていう驚きの中で、でもこのバットマンニセモノじゃねーか!という色々とインパクトのある話です。いや後半はちゃんとブルース・ウェインのバットマンとパニッシャーが戦ってくれるんですけどね。そちらの本もいずれブログでも取り上げる日が来るかもしれません。
そんな思い出深いアズラエルが堂々とバットファミリーの一員として、結構な活躍が描かれるというのもなかなかに感慨深いです。しかも、ブルースの母親的存在であるレスリー・トンプキンスさんの所で、色々と学ぶっていうのはグッと来る感じ。
面白いのはスーパーマン。ゴッサムは自分のテリトリーじゃないからといって、我関せずを貫ける程スーパーマンは冷たい男じゃありません。勿論、自分も何か出来る事があるんじゃないかとゴッサムに足を踏み入れる。が!文明も崩壊し、前時代的な社会に戻ってしまった中で、自分が思ったようには立ちまわれない事を知るスーパーマン。バットマンから、ここはお前の来る領域じゃ無いと諭され、とりあえずは一時撤退せざるを得ないスーパーマンであった。
もうちょっとリアルに考えたらさ、人道的支援的な感覚で、スーパーマンだけじゃなくいろんなヒーローが助けに来てくれても良さそうなものですけど、いややっぱりね、バットマンの性格というか、バットマンの偏屈さみたいなのは他のヒーロー仲間も知ってるだろうから、ゴッサムの支援に行きたいけど、バットマンと絡むと冷たくあしらわれて嫌な気分になるからあいつとは絡みたくないなぁとか思われてるんだろうな、とか
勝手に想像してしまいます。バットマンってね、あいつ性格悪いから嫌なんだよって言われるタイプですし。
各々のキャラクターの理念や行動、過酷な状況の中で描かれる話はどれも面白く、分厚い本ながら、一気に面白く読めました。
単発で完成度の高い1冊とかも面白いですが、こういうオンゴーイングで色々なシリーズを跨いで、しかも1年と言う長期で展開したレギュラーシリーズというのも、これはこれで読みごたえがあって面白いもんです。
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