KOROU NO CHI
監督:白石和彌
原作:柚月裕子
日本映画 2018
☆☆☆☆☆
<ストーリー>
昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島・呉原で地場の暴力団・尾谷組と新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の加古村組の抗争がくすぶり始める中、加古村組関連の金融会社社員が失踪する。所轄署に配属となった新人刑事・日岡秀一は、暴力団との癒着を噂されるベテラン刑事・大上章吾とともに事件の捜査にあたるが、この失踪事件を契機に尾谷組と加古村組の抗争が激化していく。
間もなく2作目も公開されるこちらの作品。映画好きの間でも高く評価されてましたし、嫌いなジャンルではありますが、どんなものなのかなと観ておくことに。
で、これが評判通りメチャメチャ面白かった。
ええと、まず最初に言わせて下さい。私はこういうヤクザとか暴力団とか大嫌いです。勿論ヤンキーとか暴走族も。こういうのをカッコいいとか思ったり、心のどこかであこがれたりするような部分は全くありません。他人に迷惑をかけるのをカッコいいと思ってる人の気持ちがわかりませんので。
ただ、レンタルビデオ店とかに行くと、これ系のコーナーがありますし(大概はVシネですが)漫画雑誌とかでもヤンキー漫画みたいなのって昔からずっと系譜として常にありますよね。そういうのも一定の支持があるからなんだろうな、とは思うし、こういう反社会的なものがニッチなものではなく、一つのジャンルになるくらいにまでなってるのは何故なんだろう?みたいな興味はあるのですが、やっぱり感情的にこういうのは嫌だなという気持ちの方が勝ってしまうので、あんまり詳しくは無い分野です。
ただ、ガンダムシリーズの「鉄血のオルフェンズ」がそこをベースにしてたので、元ネタを知ってた方がより深く楽しめるだろうなと、「仁義なき戦い」とかは2本目までだっけかな?それくらいは観ました。
全く知らない分野だっただけに、こういう作品だったのか!みたいな発見は多くて、そういう意味では楽しめましたが、仁義なき戦いで一番面白かった部分は、「この世界の片隅で」と直で繋がる歴史なんだな、みたいなとこが実は一番「へぇなるほど」と思ったりした部分だったので、まあそんな程度の人の感想だと思って下さい。
で、その辺を調べて作品の経緯として面白かったのは、本来、昔からある「任侠もの」という系譜があって、そういう裏社会・アウトロー社会の中でも義理や人情を重んじる主人公みたいなのが居て、そこをヒーローとして描いていたジャンルだったんですが、そこを東映が実話ベースの実録ヤクザ映画として新しい形にして、現実はそんな義理人情の世界なんかじゃなくて、実際の暴力団はただのクズの集まりでしかなんだよ、という描き方をしたからこそ、タイトルも「仁義なき戦い」という形になっている、という感じでしょうか。全然詳しく無いので、おおまかに言えばそんな感じ、くらいですが。
で、そんな東映実録ヤクザ物を今の時代にまた復活させよう、みたいな感じがこの「孤狼の血」という作品になるのかなと思います。
今の時代つっても、作中設定的には昭和63年、平成に入る直前ですね。そこを描いていて、そこは平成の初期に制定された、暴力団対策法の成立前というのが大きい。
でもって、感情的にこういうの大っ嫌いな私が何故この作品を絶賛してるかというと、主人公の松坂桃李が真面目な警察官だったから。まともな考えを持ってる人が物語の中心に居るだけで、ものすご~~~~~く見やすい。ヤクザをカッコいいとか思う人で無くても、一人真面目な人を話の中心に据えるだけで、ちゃんと見れるようになる。この配置が素晴らしいなと感心してしまった。
いや、勿論ね、この手の作品が「最後は正義が勝つ」なんて事は絶対やらないだろうなと思いながら見てますし、最後は無残に何も出来ずに殺されて終わるか、真面目なように見えて実はこいつもクズだった的な終わり方になるんだろうなとは思いながら観てたのですが、ギリギリまで頑張ってくれましたし、実は真相はこうだった的なミステリー要素もあるので、なるほどと思わせてくれる展開で、ドキドキしつつも、メチャメチャ面白かったです。
うん、でもまあそんな視点で見てましたし、こういう終わり方になるのなら、私は2とか観れないんじゃないの?という気はしてますけど、多分公開されたら観るかとは思います。やっぱり今回凄く面白かったので、続きの話ではありますしね。
一応はね、テーマもありますし、ただの暴力讃美の映画とは言わせないロジックにはなってる映画ですけど、あくまでそこは表層上そう装ってるだけかな、という印象は強いです。こういうヤクザとかをカッコいいと思ってる人向けの映画である事は間違いないとは思います。
私はそれでもルールとか法律は守れよと思っちゃう方ですしね。大義の為なら多少のルール違反はやむなし、というのは賛同しないタイプです。勿論、そうならざるを得ない状況があるとは思ってますし、逆にそう思うからこそ、なるべくルール違反はしないように自制は出来る限りギリギリまで持ってないと、という考えで、そこは一度箍が外れてしまうと、それが前例になってあとはなし崩し的にどんどん崩れて行ってしまうだろうから、という考えの上でです。
現実はそんなに甘くないよ、というのはわかるし、作中でも主人公の松坂桃李君が変わっていくのはそれはそれで面白味ではありました。童貞喪失とかちゃんと律儀に描いてあるのは笑っちゃいましたけど。(イノセンスな存在では無くなる、という映画の文脈の上での話ですよ)
主演の役所広司は勿論ですが、演者の感情が乗ってる芝居も本当にみんな素晴らしかった。凄くシンプルな感想になっちゃうけど、見応えがあるというかね。
オタク的にはね、やっぱり松坂桃李と言えば「シンケンジャー」ですし、直接会うシーンは無いんですけど、伊吹吾郎さんも出てるのがポイント高いです。殿とじいやじゃねーか!っていう。松坂君のデビューに立ちあってね、そこからこんな凄い映画の主役を張れるくらいにまで成長したんだって思ったろうな、とか勝手に想像すると、なんかこっちまで嬉しくなっちゃいますね。オタ的な視点で言えばデカレッドも出てたりするんですけども。
個人的な満足度も、他人に対してのおすすめ度もどちらも高い、とても面白い作品でした。やっぱり単純に、こういうジャンル嫌いだから、とか言って敬遠するのは勿体無いですね。
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