WHAT IF? SIDE A
著:ジェリー・コンウェイ、ブライアン・ヒル、カール・ポッツ
ロイ・トーマス、マイク・W・バー、ピーター・ギリス(作)
フランク・ミラー(作/画)
ディエゴ・オロテギ、ニール・エドワーズ、ジアニス・ミロニジアニス
フアナン・ラミレス、ジム・クレイグ、サル・ビュッセマ(画)
訳:吉川悠
刊:MARVEL 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2021年
収録:WHAT IF? SPIDER-MAN #1(2018)
WHAT IF? X-MEN #1(2018)
WHAT IF? THE PUNISHER #1(2018)
WHAT IF? #1(1977) #28(1981) #44(1983)
☆☆☆★
人気シリーズ『WHAT IF?』を
日本独自の編集で単行本化!!
“フラッシュ・トンプソンがスパイダーマンだったら?”
“X-MENがサイバーパンクだったら?”
“ピーター・パーカーがパニッシャーだったら?”
“スパイダーマンがファンタスティック・フォーに加わっていたら?”
“デアデビルがエージェント・オブ・シールドだったら?”
“キャプテン・アメリカが現代に復活していたら?”
ディズニー+MCUドラマ「ロキ」に続いて間もなくスタートする初のMCUアニメ作品「ホワット・イフ?」ですが、それに絡めてコミック版も発売されました。アニメの原作とかじゃなく、コミックでは昔から継続的に続いているシリーズです。
いわゆる正史世界とは別のルートやシチュエーションを描いた、もしも?の世界を読み切り形式で描くっていうシリーズですね。今回は日本版の独自編集という事で、近年のシリーズから3本。初期のシリーズから4本収録されてます。帯には書いて無いですが、元の#28が2話収録だった為、デアデビルの話と合わせてもう一本「もしもゴーストライダーからジョニー・ブレイズが分離されていたら?」という話が収録されてます。
嬉しい悲鳴ではあるんだけど、ぶっちゃけ日本語版アメコミの刊行数が多すぎて、全部は追い切れて無い状態。私はDCの方はあとまわしになっちゃってて、(別にDCが嫌いなわけじゃないよ)マーベル中心に買ってるんですけど、それでもなかなか大変。別に正史に影響無いし、これも後回しで良いかなぁ?とか思ってたんですけど、とりあえず1巻の方だけまず読んで判断するか、と思ったら、スルーしてしまうにはあまりにも惜しい話が最後に収録されてました。
1話目と3話目、どちらもスパイダーマン絡みで、正史とは違う形だからこそ、スパイダーマンとは何ぞや?という所が描かれていて、なかなかに深い話。
2話目、サイバーパンクX-MENは設定が面白いのと、絵も含めて「攻殻機動隊」リスペクト作品になってて、ドミノが草薙素子になってるという、ある意味での珍作みたいな感じではありますが、なかなかに面白い一本。
以上3本が近年の作品になっていて、以下は旧作。
まずは#1ですが、もしスパイダーマンがファンタスティック4に加入していたら?というifストーリーですが、これ、ホントにスパイダーマンの初期の分岐ストーリーなんですよね。
ヒーロー稼業やってても給料が出ないけど、ファンタスティックフォーとかはお金貰ってるんじゃない?と押しかけるも、発明の特許料とかで生計立ててるだけでヒーローとしては無給のボランティアだよ、と結局追い出される?話、確か日本語版だとスパイダーマンの初期10話くらいを収録した「マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン」に収録されてたかと思います。
おお、あそこからの分岐なのか!と日本語版読みの人にも馴染みのある感じ。しかも、そこでFFもスパイディも上手く行くかと思ったら、色々あってスーが離脱してしまうというちょっと切ない話。
ついでに、1号の巻末記事として「ホワット・イフ」が作られた経緯をロイ・トーマスが語ってるんですけど、これもなかなか面白くって、昔から、読者の手紙とかで「こんなアイデアはどう?」っていうのが送られてきてて、そういうのも参考になるとか言ってるんですけど、これ、今はNGだそうです。調べたら、マーベルだけでなく、日本でも東映とかはアイデアとか企画書みたいなの送ってきても見ないし、送らないで欲しいって言ってるそうな。多分どこでもそれは同じで、理由はもしそのアイデアと少しでも似てる部分があったりすると「あれは自分のアイデアの盗作だ」って言う人が出てくるからだそうで。
ああ・・・なんか色々過去の事件とかトラブルとか思い出しちゃいますね。すごく現代的だなぁと。
そして#28は、なんとあのフランク・ミラー作。
まさかこの本でフランク・ミラーに会えるとは。メチャメチャ面白い話って程では無いですが、レア度は高いです。
そしてその#28でもう一本収録されてるのがゴーストライダー編。
小プロから1冊だけ出た「破滅への道」もジョニー・ブレイズの話っぽいですが、私はまだ読んで無い。90年代に出た3冊は2代目のダニエル・ケッチさんでしたし、最近のにちょこちょこ出てる4輪ライダーはロビー・レイエスですので、昔のジョニー・ブレイズ版ゴーストライダーは日本語版だと貴重な存在な気がします。
でもって最後の#44
いやもうこの1本だけでこの本を買った価値は十分と言えるくらいの名作でした。ホワット・イフシリーズの中でも特に取り上げられる事の多い特別な1本のようです。
アベンジャーズ#4(日本語版「アベンジャーズ:ハルク・ウェーブ」にも収録されてます)からの分岐で、キャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャーズがここで復活していなかったら、というifストーリーになっていて、後に別人と設定された1950年代版キャップ&バッキーの方が後に復活。スティーブ不在のアベンジャーズはその後解散した世界で、50年代キャップが愛国ヒーローとしてアメリカの政治状況をどんどん右の方に導いていって、白人至上主義の分断社会を作っていく、という話。
その後にスティーブも復活して、二人のキャプテン・アメリカが激突という、今で言う「シークレット・エンパイア」とかMCU「ファルコン&ウィンターソルジャー」にも通じる、星条旗を背負ったキャプテンアメリカは何の為に戦うのか?というのを描いた1作になってます。
壁を作ってマイノリティの分断を試みる中で、黒人たちが自由の為に立ちあがったりと、今の社会に当てはめて読んでも十分に面白いし、1983年にこれが描かれていたというのは本当に素晴らしい。
「ウォッチメン」とか「DKR」が1986年ですよ。勿論その前にデニス・オニールの「グリーンランタン/グリーンアロー」とかコミックで社会問題とか政治とかそういうのを描くようになってきた流れはあるんですけど、この作品もそういう流れの中の1本ですよね、多分。
いや私ね、アメコミにハマるようになった切っ掛けは色々とあるんですけど、読み始めて初期の頃に、こういう政治だったリ社会問題だったりをヒーロー物でやってるのが、アメコミ凄いな面白いなって思う部分だったんです。裁判所で弁論するヒーローとかね。日本のヒーロー物には無い面白さを凄く感じて、アメコミの良さ、面白さだなって凄く感じて、ますますアメコミヒーローにハマっていった切っ掛けの一つです。
映画とかでもただのアクションとかよりは社会派要素やテーマ性のある物の方が好きですし、日本のヒーロー物でもこういうアプローチ出来ないものかな?と日々思ってたりする。
キャップだってね、最初は私も思ってましたよ。星条旗ヒーロー?しかも名前がキャプテンアメリカって!って。でもコミックで「ニューディール」とか「ウィンターソルジャー」を読んで、ああ彼はアメリカの掲げる理想に身を捧げているのであって、もしアメリカと言う国が道を踏み外したと彼が思うのなら、アメリカと言う国そのものにまで立ち向かうのか、ただの保守ヒーローとかじゃないんだっていうのを知って、これは面白いなと思ったものです。
まさに今回の読み切りもそんな部分が存分に描かれてて、この時代からちゃんとキャプテンアメリカとは何か?が描かれてるんだなと思えて、メチャメチャ面白かった。物凄く政治的な話ですよ。でもヒーロー物でそこを描くのが面白いわけで、この1本だけで十分におつりが来るストーリーでした。いや、スルーしなくて良かった。キャップ好きなら是非読んでおきたい1本です。
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