X-MEN:DAYS OF FUTURE PAST
著:クリス・クレアモント(ライター)
ジョン・バーン、ジョン・ロミータJr.(アーティスト)
訳:御代しおり
刊:MARVEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2014年
収録:UNCANNY X-MEN #138-143(1980-81)
X-MEN ANNUAL #4(1980)
☆☆☆☆★
映画最新作『X-MENフューチャー&パスト』の原作がついに邦訳!2013年、ミュータントには処刑か強制収容所への拘留のいずれかの運命が待っていた。この暗黒の歴史を塗り替えるべく、ケイト・プライドは全ての悪夢の始まりである1980年へとタイムスリップを試みる!歴史改変ストーリーの先駆けとして大きな反響を呼び。映画最新作の原作ともなった名作「デイズオブ・フューチャーパスト」を完全邦訳!さらに、X-MEN誕生からの歴史を振り返る総集編、地上最強の魔導師Dr.ストレンジ、カナダのヒーローチーム、アルファフライトとの競演など、全7編を収録!現代のアメリカンコミックスの原点となった、クリス・クレアモント-ジョン・バーン-テリー・オースティントリオの名作がここに甦る!
映画に合わせて当時一緒に出ていたこちらも合わせて再読。
いやもうこれがマニアにはたまらない面白さ。これぞ黄金期っていう感じの新しい面白さがある。いや、X-MENの黄金期って90年代のジム・リー期なのかな?どっちもライターはクレアモントだし、こっちは何せジョン・バーンのアート。ここを起点に更に加速していくっていう感じでしょうか。
映画の方だと順番が逆になってますけど、この話「ダークフェニックスサーガ」の直後からスタート(いや映画も「ファイナルディジジョン」が実質のダークフェニックスでしたが)。あの一大サーガ、悲劇性から今度はこの話が続きとして読めるんだから、当時のファンはね、さぞ大興奮だったでしょう。
近年の大型クロスオーバーイベントとかって、どうしても会社側の売り方とかそういうのが主導になってしまう印象があるけど、多分この辺りの時期の話は、クレアモントの筆に脂がのって、こんな話はどうだ?こんなのも描けるぞ?とかマーベルのハウスオブアイデアじゃないけど、そんな感じで物語が紡がれてる感じが凄く良い。
単発で読める完成度の高い名作とか、正直そういう部類では無いと思うんですけど、古い時代のアメコミらしく、ネーム(文字数)の量が圧倒的に多くて、読み進めるのが凄く大変なんだけど、その分読み応えがあって、いかにもアメコミを読んでるなぁという感じが、凄く心地良い。
この、文字数多すぎって近年のアメコミではもうあまり残って無い部分で、ページの進行方向こそ逆だけど、日本の漫画とかとそんなに差は無い感じになっちゃってるので、80年代から前くらいのは特に読むのが凄く大変なんだけど、これがねぇ、個人的には異文化っていう感じがして実は結構好きです。
最初に収録されてる#138。
「ダークフェニックスサーガ」は#137までだったので、ホントにこれが直後。傷心のサイクロップスはX-MENを離脱する決意を固め、これまでの過去を振り返るという体で、1話からここまでのダイジェストが読める。
解説書にもありますが、当時は当然ネットなんかあるはずもなく、その上アメコミは単行本としてまとまる事も稀だったので、こういう1冊が新規ファンには歴史を知る特別な1冊となっていたというのが面白いですよね。
で、その解説書なんですけど。今回は2枚も入ってて。1枚目はこの総集編の1話分の解説で細かい文字びっしりで全部埋まるという解説の充実ぶり。
「ハウス・オブ・X/パワーズ・オブ・X」では開き直って小冊子にしてましたが、あれと合わせてこの時代までの歴史を知るには最高にありがたい解説書です。
X-MEN系のヴィランではありませんが、MCUドラマ版シーハルクに出てたポーキュパインが1コマだけ出てたのをこのタイミングで再読して発見しました。そんな部分でも面白い。
そして続く「アニュアル#4」
ドクターストレンジとの競演で地獄めぐりをするという変わった一冊。これも解説書によると、コミック上ではストレンジとプロフェッサーの距離がこれほど近いエピソードは過去にはないはずなのだがって書いてあるんですけど(FFの結婚式で顔は合わせてはある)、後付けのイルミナティを考えれば、そこで仲良くはやってると考えられるかもしれない。
前話の総集編でもそうなんですけど、過去の話と言いつつ、後付け設定とか後の伏線もちょこちょこ歴史に組み込んであるらしく、まさしくそういう所もマニア世代のコミックならではという感じで面白い。
次の#139-140は前後編のアルファフライト編。
ウルヴァリンの過去が少しずつ明かされて行く。アルファフライトの繋がりはここが初出とかでは無く何度目かの話ではあるんだけど、肉付けされていく感じが面白いんですよね。
そしてそれはウルヴァリンだけでなく、X-MENの2期メンバー全員で、セリフや描写の端々に、各々のキャラクターの内面とかが描かれて、そこが凄く面白いんですよ。このキャラにはこんな面があったのか、こんな不安を抱えているんだ、こんな苦手な面もあるのかと、こういうのはファンが物語を追っていく中で、どんどんキャラに深みが出て面白くなっていく部分。人気が出るのも頷けるなと、その技量に感心します。
そしてタイトル作の「デイズ・オブ・フューチャーパスト」編#141-142。
1冊この話じゃなく前後編という意外とコンパクトな形。設定上の2013年というのは今読むともう過去になっちゃってますけど、当時としては、未来はこんな世界になるのか!という衝撃と共に、FFのフランクリン・リチャーズが将来のX-MENだったり、ミュータントだけでなく他のヒーローまでセンチネルに殺されてたりとか、色々と面白い。
しかもねぇ、結構読み返して衝撃だったのは、映画見たいにハッピーエンドじゃないんですよね。未来が結局変わったのかどうかは明かされない。
この当時はまだ明確な設定はされていなかったそうですが、マーベルの歴史とか過去改変は、基本的には映画「エンドゲーム」での説明にあったように、その世界そのものの過去や未来はかわらないけど、そこに新しい分岐が出来る、というのが基本。
今回の話でも、それっぽい説明はちょっとあるので、そういうののひな型になったという感じかな?世界や歴史の改変物ってこの後沢山出てきて、今ではありふれた物になっちゃってる感はありますが、この時点では凄く斬新だったという事かなと。
そこは「ダークフェニックス」もそうですよね。今でこそアメコミで誰誰が死んだ!とか言っても、はいはいどうせ2~3寝かせてしれっと復活するんでしょ?お決まりの定番イベントじゃん程度にしか思わないけど、ダークフェニックスの時はまだヒロインが死ぬなんてありえる?という衝撃だったと。そういうのと同じで、デイズ・オブ・フューチャーパスト編も、相当な衝撃作だったんだろうなというのは想像つきます。
映画と違って過去に飛ぶのはウルヴァリンではなくキティですし、映画では何故かキティの能力になってましたが、原作だとその能力はレイチェルによるもの。っていうかレイチェル・サマーズってここが初出だったのか。ケーブルと共にサマーズファミリーとして90年代はちょこちょこ出場あったのですが、異世界のっていう説明だけで、それがどこかよくわかってなかったけど、この世界の出身だったんですね。面白いなぁ。
そして最後#143は
キティのお留守番回。この時期はキティが作品のメインヒロイン扱い。
という事で、非常に読み応えもあり、満足度の高い1冊。
「アンキャニィジェネシス」「ダークフェニックスサーガ」「デイズオブフーチャーパスト」「ウルヴァリン」とか、この辺の時期をそれなりにまとめて読めるのは非常にありがたいし、とても面白いですねぇ。新し目のも良いけど、こう言う古いのも味わい深いし、一時代を築いただけのものはあったりするので、機会があればもっと読みたいです。
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