僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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ドミニオン


原題:Dominion: Prequel to the Exorcist
監督:ポール・シュレイダー
アメリカ映画  2005年
☆☆★

 

<ストーリー>
ランカスター・メリン神父は、第二次大戦で体験した悪夢のような出来事から信仰を失い、考古学者に転身した。アフリカで遺跡発掘隊に加わり、そこで地下に祭られているパズズの悪魔像を発見。これによって邪悪な魂が復活し、不穏な事件が起こり始める。

 

実は私も最近知った「エクソシスト」の関連作。シリーズの4作目「エクソシスト:ビギニング」の姉妹作というか、基本的には同じ話で別の映画という不思議な1本。

 

エクソシストの4作目としてこちらの作品が作られていたものの、撮影も終了、ファーストテイク(撮影素材を繋げた荒編集版。特殊効果とか音楽も入って無い一番最初のバージョン)まで出来あがったが、その仕上がりを見て制作側がこれはちょっと出来がよろしくないぞと、アクションやホラー要素の追加を要求。スタジオ衝突したポール・シュレイダー監督は降板。

 

レニー・ハーリン監督が起用されたものの、追加のみでは埒が明かぬと主演俳優のみをそのまま生かして結局は全部を作り直す事に。そして完成したのが「エクソシスト:ビギニング」という作品。

 

が!興行的にも批評的にもビギニングは大惨敗。私も見たけど、内容なんかほぼ憶えてません。名前だけ使った魂の無いどうでもいい作品という印象しか残って無いです。

 

大惨敗を喫したスタジオは負債を少しでも減らしたいとして、廃棄した最初のバージョンを正式に完成させて、別の映画として売り出す事にした。それが今回の「ドミニオン」という作品。メリン神父の過去を描き、プロットもほぼ同じ作品が2本も作られる事に。

 

結果は・・・こちらも興行的にも批評的にも全く振るわず失敗に終わる。日本では劇場公開もされておらず、更にはソフトまで出ていない。サブスク配信のみで密かに見れるようになってたらしく、U-NEXTを漁ってたら、あら「ドミニオン」あるじゃんか(アマプラには入って無いです)エクソシスト好きとしてはこれは見ておかねばと。

 

「ビギニング」も酷かったし、最初からクソ映画だと知ってて見るのも多少は気が引けましたが、まあ新作も公開されるしせっかくの機会ですしね。

 

と、ハードルを下げたのが良かったのか、あれ?そんなに悪くは無いぞと。

 

でも、制作スタジオが却下したのも思いっきり頷けます。よっぽどのマニアとかでもなければね、「エクソシスト」というタイトルの映画に期待するものって、普通に考えて「怖さ」でしょう?ホラー映画なんだから、怖い物が見たくて見る。それは普通。

 

でもこの映画、その手のシーンがほとんど無いのです。逆に「ビギニング」は無意味にそういうシーンが多かったのは、そういう事だったんだなと今更ながらに納得できました。

 

おいおい、ホラー映画なのに怖くないってどういう事?よくある、怖さを越えてギャグみたいになってるって事?とお思いの方も中には居るかもしれません。

 

そうじゃない。クッソ真面目に作ってるんです。真面目すぎて面白味が無い。元々の「エクソシスト」は、原作者のウィリアム・ピーター・ブラッティがこの世界に神は存在するのか?みたいなテーマをもって作られた作品でもある。

 

信仰とは何か?神とは何か?みたいな事を描く上で逆説的に悪魔を描いたような部分もあるのでしょう。今回はそこをきちんと掘り下げて描こうとしている。そういう意味では思いっきり真っ当な「エクソシスト」の系譜にある作品。

 

でも、客がこのシリーズに、そしてホラー映画に求めてるのはそういう事じゃないぞ!というのも、物凄くわかります。

 

一応、終盤にいかにもホラー映画ですよ的にはなるのはなるんだけど、そんなのおまけでとってつけたような部分で、そこは本当につまらない。クライマックスなのにつまんないのです。

 

むしろ前半の退屈な部分こそが、先に書いたようなテーマの掘り下げをしているので、そこの方が面白いという、なんとももどかしい作品。

 

この作品の中で描かれている事では無いのですが、例えばの話、飛行機や列車の事故、或いは災害でも良いです。周りの99人が死んだのに、たった一人自分だけが奇跡的に生き残ったとしましょう。多分その人は、神の存在を信じると思います。ただの確率論じゃない、自分だけが生き残ったのは何かしらの意味や啓示じゃないか、と思うはず。

 

逆に自分の家族や恋人、親友とかを不慮の事故で亡くした場合はどうでしょう?物凄い不幸な目にあってしまったらどうでしょう。昨日まではあんなに楽しく過ごしていたのに、何の罪も無い人が、何の脈絡もなく不幸に合う。神様なんて存在しないんだ、例えそでまでいくら信仰深く生きていても、それは何の役にも立たなかった。「神は試練をお与えになられた」とか言われた所で、そんなものは詭弁にしか聞こえない。神なんか存在しないじゃないか。

 

「神」の正体なんて実際はそういうものです。


あ、ちなみに後者はバットマンの「ジョーカー」なんかでそういう話があったりします。(アラン・ムーアの「キリングジョーク」)なんだよ、人生なんて冗談みたいなものじゃないか。こんなおかしい世の中で正気を保っていられるお前らの方が狂っているんじゃないか?っていうね。

 

それはともかく、今回の映画でも、10人をサクリファイスに捧げれば町の人は助けてやる。さあ誰を殺すかお前が決めろ、みたいな強烈なシーンや、若い神父を慕って集まってきた子供達が凶弾に倒れ、ここに子供達が来なければ死なずに済んだ。神が子供達を殺したんじゃないか!と問われるシーンとか、これはと思う描き方が何気に多く、そこは素直に感心しました。

 

それでも信仰心を失わずに済むのか?
もはや神に祈るしか無い状態にまで追い込まれながら、それでも神は決して手を差し出さない。それがお前の信じる神なのか?という問い。

 

これね、アプローチの仕方によっては傑作になりえる素材やテーマだと思う。

 

でもまあ正直今回は上手くは行って無いです。「ビギニング」観たのは相当に前なので、今見返したらどう思うかはわかりませんが、私は「ドミニオン」の路線の方が好み。前半は結構引き込まれたんですけど、ただ後半というか、クライマックスが何ともしがたいショボさでした。なんか凄く勿体無い。

 

まあ劇場公開版とザック・スナイダー版で、同じ素材でありながらテーマそのものや意味性が180度変わっている「ジャスティスリーグ」なんかと同じで、同じ出発点ながら複雑な経緯を持つ二つの作品みたいな特殊な例を体験してみるというのも悪くは無いかもしれない。

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