原題:Little Women
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』
アメリカ映画 2019年
☆☆☆☆☆
<ストーリー>
しっかり者の長女・メグ、活発な次女・ジョー、内気な三女・ベス、人懐っこい四女・エイミーの個性豊かな四姉妹。彼女たちは輝かしい少女時代を送るが、成長するにつれ厳しい現実が待ち受ける。ジョーは幼馴染み・ローリーの求婚を断り、小説家を目指すが…。
幾度となく映画化されてきた古典「若草物語」の最新版。
日本だと確か世界名作劇場でTVアニメもやってましたよね。
ただ実は・・・タイトルだけ知ってたけど「若草物語」の物語に触れるのは私は今回が初めてです。
4姉妹の物語で、それぞれの生き方を通して女性の自立とは何か?みたいな事を描いてる作品だったんですね。しかもただの物語では無く、半自伝的小説。
半自伝的小説という意味ではグレタ・ガーウィグの前作「レディ・バード」にも通じる部分があるし、主演のシアーシャ・ローナン、相手役のテイモシー・シャラメが続投してるなど、ストレートに企画として続いてる感もある。
ただ、元々はサラ・ポーリーの企画だったものを、脚本でグレタ・ガーウィグが入って、結局はそのままの流れで監督もする形になったようです。元々「若草物語」に思い入れがあったのかどうかはわからないけど、それをここまでの作品に仕上げる技量が尋常じゃ無い。
最初に触れたとおり、私は「若草物語」自体にこれまで触れた事が無いので、それが原作の持つ良さなのか、或いは今回の映画が持つ独自の魅力なのか、判断しかねる部分も勿論あるけど、調べる限りでは、原作も過去のいくつもの映画も普通に少女時代から順に描いて大人になっていく話になってるようですが、今回は大人になった所からスタートし、過去を振り返るという構成になってる。
いわゆる時系列シャッフル系なので、元の若草物語の大筋を知ってた方がわかりやすく、そこを知らないと結構混乱するのですが、テロップなども入らず、髪型とか状況とかそういうのから察してね、という説明無しながら、時系列的に今の大人になった視点は寒色系、過去の少女時代は暖色系という画面の色使いの変化で差を見せてるのが凄い。
相当に鈍感な人なら最後まで画面や時代の違いを読み込めず混乱する人も居るでしょうけど、大半の人は途中で気付くはず。
少女時代は温かみのある赤系、セピアカラーというのもあるのかな?大人になって現実を知ると冷たい色になる、という感じなのかなと思わせておいて、終盤更にそこに面白い仕掛けが加わる。
主人公のジョーは作家を目指していて、自分の少女時代を半自伝的小説として描いたのが「若草物語」なので、そういうメタ視点もちょっと絡んでくる。そこが個人的にはメチャメチャ面白かった。「レディ・バード」も半自伝的物語だったわけで、その手腕がもう存分に生かされてるんだなと。
女性の自立なんて世間には全く認められていなかった時代。小説もまたしかりで、ラストは結婚して幸せになりましたか、死んで終わりの悲しい物語のどちらか2択しか無い。
ここでのジョー、そしてグレタ監督の選択がね、ホンっとに素晴らしい。譲らない部分は絶対に譲らない。でも世間に合わせた妥協もしてみせる。
割とこういうやつって、何があっても信念を曲げない。自分を貫き通す事が美徳とされがちな中で、逆にしたたかさを見せる姿に敬服させられました。
原作のオルコットの「若草物語」が描かれたのって1868年。当時の感覚で言っても相当に前衛的な考え方での自立した女性像だったと思うし、やっぱりこの物語を読んで育ち、後年の歴史に影響を与えた凄い作品だったんじゃないかというのは、今回の映画で初めて触れた私にも凄く理解出来る部分でした。
4姉妹の話なので、小説、絵画、音楽とかそれぞれの特性を姉妹に分散させられるし、お金持ちと結婚する道を選ぶ者、貧乏でも愛を選ぶ者、自分の道を貫く者、更には残念ながら悲劇に見舞われてしまう者と、多様な描き方がされている。ついでに言えばお母さんや資産のあるおばさんとか、姉妹の回りも面白い描き方をされていて、上手く作られてる話なんだなと思えた。
ある意味、「若草物語」は150年前から女性の為のバイブル(聖書)みたいなものだったんじゃないかと思うし、だからこそずっと愛され続けてきた物語なんだと思う。
それをね、150年後に映画として、ちゃんと今の時代にアップデートさせて古典じゃ無く今の物語として、これ以上無いくらいの形で結実させたこの映画凄くね?って話ですよね。これ、人によっては一生に一度の特別な映画になりえてる可能性がメチャメチャ高そうな1本ですよね。この映画に出会えたおかげで自分の人生は変わったんだよ、という人がきっと出てくるくらいの映画。
今を生きる全ての女性に対しても、150年前と変わらずバイブルたりえるものをきっちり作り上げてきた監督の手腕に脱帽する他無い。
いやこれでアカデミー賞取れないってそれ裏で何らかの力が働きかけてるんじゃないかって勘ぐる人が出てくるのも正直理解出来る話です。
2019年の作品賞はポン・ジュノ「パラサイト 半地下の家族」でした。外国映画は作品賞取れないっていう長年の下馬評を覆す為の受賞でしたよねあれ(作品としては勿論傑作ですが)脚色賞すらとれず、衣装デザインのみ受賞とか、やはり勿体無い気がします。
まあそもそもアカデミー賞って映画通の間では、色々な背景込みなのは認知されてるので、受賞作品とノミネート作品にそんな差は無いよっていうのは割と通説なので、その辺を理解出来てればまだ良いですが、正直個これは歴史的な価値のある1本だと思います。
あえて難点を言えば、元々の若草物語を私は知らなかったので、
シアーシャ・ローナン演じるジョーが長女、
フローレンス・ピューが演じるエイミーが次女
エマ・ワトソン演じるメグが三女
そしてベスが末っ子だと、映画を見てる間は勝手に見た目で判断してたのですが、ここの順番、私が思ってたのと実際の役の上では全然違うのね。まさかフローレンス・ピューが実は一番下だったとは思わなんだ。
そしてやっぱり良かった細かいエピソードやディティール。エイミーのあの気持ちやセリフはなかなか描けるものじゃないし、ジョーの独白とかもグッと来るものが。
私は女性じゃ無いので、この作品の影響うんぬんは無さそうですが、それでも大傑作中のホントに凄い特別な作品というのは十分すぎるほどに伝わりました。
さて次は「バービー」です。
これ見てマーゴット・ロビーが一緒に作品を作りたいって声掛けるのわかりますわ。
ってあれ?U-NEXTに入ってるバービーって有料なのこれ?しかもちっさくしか書いてない。
いや私、この手のネットの広告とか有料に導く為のまぎらわしい奴が大嫌いなんですよ。有料は有料で仕方ないけど、騙すみたいなのやめろよっていう。一気に気持ちが萎えました。
元々、無料お試し期間でめいっぱい楽しむみたいな流れで見てたので、今回「バービー」は無しで。何かいずれ別の機会に譲りたいと思います。
まずは今回「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」という大傑作に巡り会えただけでも良しとしておきます。
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