監督:田崎竜太
脚本:毛利亘宏
原作:石ノ森章太郎、八手三郎
日本映画 2021年
☆☆☆★
確か例年だと仮面ライダーの夏映画にスーパー戦隊の短編、という枠だったでしょうか?私はライダーの方はあまり好きじゃ無くて、スーパー戦隊派なんですが、この枠に入る戦隊の短い夏映画はシリーズ全体を通してもそんなに重要なポジションじゃないので、普段ならスルーしてるパターンです。
でも今回は同時上映とかじゃなくコラボ作品という事ですし、その分戦隊もいっぱい見れそうかな?と思ってせっかくだからと見て来ました。
戦隊側だとゲストでシンケングリーン、キラメイブルー、デカマスター、リュウコマンダー、ワシピンクがピックアップされてるっぽいのは事前情報で知ってましたしね。ああそれなら観たいかなって。
それに現行作品だと、「仮面ライダーセイバー」の方が戦隊っぽい大人数チームになってて、「機界戦隊ゼンカイジャー」の方が人間一人のむしろライダーっぽい作りになってて、そこがミックスされるのちょっと面白そうですしね。実際のドラマは結局ライダーはライダー、戦隊は戦隊っぽく結局は作られてるんですけども。
先日のTVスペシャルのコラボ回はゼンカイジャー成分強め。単純に楽しい回になってて、そっちも割と楽しめたのですがこちらの映画は割合的にはややセイバー要素が強め。
これまでの過去のライダーや戦隊作品が実はそれぞれの一つの本の世界だった、という世界観になってますし、そこはセイバーが小説家で物語を生みだす人なら、ゼンガイジャー側としても、過去の作品がパラレルワールド的に一つ一つのギアに閉じ込められているという設定がある為、そこが上手くハマってる感じ。
その上、「西遊記」だとか「八犬伝」とか、東映特撮とは関係ない一般の物語(本)の世界がミックスされてしまったと。これまでの過去の作品が、実は一冊の本だったんだよ、という時点でかなりメタ構造な事をやってるなぁと思ったのですが、ただのお祭り映画じゃ無く、いやはやこれが、本当に今回はそのメタ構造そのものをテーマにしてあった。
え?結構踏み込んだ事をしてくるなぁと思いながら見てたら、もうホントにその部分に物語の焦点が当てられて行って、ある意味とてもシュールな方向にガンガン話が進んでいく。
えっ?これ大丈夫か?私はこういうの好きだけど、子供はこれ理解できるんだろうか?なんて思いながら見てましたが、私の席の前に座ってた子供は明らかに途中で飽きてグズってました。特にあの飛羽真が真っ白な空間で話してるとことか特に。
でも私も、鈴木福君演じる謎の少年、章太郎っていう名前を名乗った時も、ん?仮面ライダーWとかぶってるけど大丈夫かな?今回はWは特にメインじゃないからいいのか、ぐらいに思って、すぐにはその正体に気付けませんでした。流石に途中からは気付きましたけども。
でもそれ故に、ああこういう話なのか、子供はグズってるけど面白い事をやってくるな~って意外性を素直に感じられて、そこはとても面白かった。
ここからネタバレですのでご注意を。
そう、今回は「ヒーロー誕生の物語」みたいに謳ってる通りに、福君が演じてるのは、あの石ノ森章太郎だったんですね。すげぇメタじゃん。ここまで踏み込むのかって感じでなかなか面白い。
ドラマの流れ的にはあまり合って無かったんですけど、ヒーロー番組なんて薄っぺらじゃん、とかわざとセリフで言わせたり、ただの二次創作だし同じモチーフを何回も繰り返してもうオワコンじゃないの?みたいなのもね。ここまで言うかっていうセリフとしては面白い。
ただそれに対する返しが、価値が無いなら50年も続かないよ、とこれまたただセリフで返すだけなのが非常にもどかしい。
ちゃんと映画としてね、戦隊やライダーに大切なものを俺らは教わってきたんだよ、というのを私は見たかったんだけど、今回焦点が当てられてるのは前述の通り、石ノ森章太郎という作者の方であって、決して視聴者ではないのでそこは正直ただのセリフのやり取り以上のものには感じられなかったのが残念。
役者として先輩たちから受け継がれてきたものがある演者でもある飛羽真に色々言わせるのもわかるんだけど、やっぱりそこは一般人だとかファン代表的な何かしらのバックボーンのある人に言って欲しかったというのはある。
とまあ、なんか多少の無理矢理感はあって、手放しに見事だったとは言い切れない所はあるものの、それでも自分が口に出したセリフが既に本に書いてある通りだった的な部分はゾクっとさせる、まるでアイデア重視のハリウッド作品を見ているような感覚が味わえましたし、そこはなかなかに面白かった。
例え本の中の架空の登場人物でもそれが勝手に動き出す事はある、だとか自分は正義と悪の両面を持った人間らしさを描きたいんだ、とかその辺はちょっとありがちなネタでやや面白味には欠けたかな。
どうせなら私はアメコミヒーローオタクでもあるので、せっかくだったらその辺にも附言してほしかったかな、というのもあります。今はマーベルが世界一のコンテンツと呼ばれるくらいに成長したご時世ですし、ライダーが最初に蜘蛛男と蝙蝠男を出したのはアメコミへの対抗意識って割と有名ですしね。
それぞれに違う方向でヒーロー文化が成熟していったっての面白い部分なのでこういうのとは違うんだ的なものがあっても良かったかも。
仮面ライダー50周年のロゴの中に映像を流すって、思いっきりマーベルのパクリっぽくやってたの笑いましたがその節操の無さこそが東映を一人勝利ちに導いた、ある意味での「東映らしさ」だったりもしますしね。
私は、ライダーの方はそんなに・・・な人なので、映画とかはあんまり見て無いんですけど「お前たちの平成って醜くないか?」辺りから、結構メタ要素に突っ込んでくる作品がいくつかあったらしいじゃないですか。その辺の系譜を引き継いでる感じで、ちょっとメタネタを使ってる奴見たくなりました。いずれそっちも見ておこう。メタ作品私好きですし。
あ、そういえば非公認戦隊を出してくれたのはとても嬉しいです。ただのネタに見せかけて、アキバレンジャーでも原作者の八手三郎の話やってましたし多分そこらへんにも気を使ったのかも。
あとはクライマックスのヒーロー集合バトルで、タイトルロゴと共に過去ヒーローほとんど全員にセリフがあるんですが、あれはライブラリ音声とか使えなかったんだろうか。もうメチャメチャニセモノ感たっぷりでした。似せる気とかも一切無いんだもの。
鈴村、神谷、稲田徹が居るんだからムチャぶりしてニュアンスだけでも再現をお願いすれば良かったのに。声質は無理でも、彼等は全部知ってるはずですし、リスペクトたっぷりにやってくれそうなのに残念。そういう、ここぞという所に力を入れられないのもまた東映くさいと言えば東映くさいですが。
最後に藤岡弘と石ノ森章太郎の対面、という離れ業で締めるのにはクラクラ来ました。面白いんだか、酷い作りなのか、凄いんだか無理矢理くさいんだか何だかよくわからんものを見せつけられたぞ、という意味ではなかなかインパクトのある作品になってました。
仮面ライダーヴェノ・・・じゃなかったリバイスについては特に言う事無し。見るとは思うけど、私は近年のライダー好きじゃないので。
あ、でもピンクライダーはちょっと悔しいかも。ディケイドとかエグゼイドもマゼンタカラーでしたが、ここまで思いっきりピンクとは。実は私は戦隊の方に男ピンクが出るのを期待してました。先を越されたな~ってちょっと悔しい。いや番外戦士でジュウオウヒューマンとか居るけどさ。
変な映画だったな、としか言いようが無いですが、おそらくTVシリーズのラストでこっち方向は難しいと思うので、「仮面ライダーセイバー」アナザーデンディングという感じで考えるとそんな意味でも面白かったかもしれません。
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