KAMEN RIDER GEATS
監督:中澤祥次郎、他
脚本:高橋悠也
TVドラマ 2022-23年 全49話
☆☆☆☆
令和ライダー4作目。いやもう本っ当に久々に面白い仮面ライダーでした。
いつもと同じ事をまた書きますが、私は今のTVでやってるような仮面ライダーは1ミリも面白いと思ってません。スーパー戦隊は面白いです。ライダーもTVじゃない「アマゾンズ」とか「ブラックサン」は面白かったです。
時間的にね大好きなプリキュアと戦隊の間に入ってるので、見てるような部分があって、もしもの話ですが、プリキュア戦隊が続けてあってライダーがその前か後ろかだったら多分もう毎週とかは見て無いくらいにはライダーは好きじゃありません。
今の仮面ライダーで一番嫌いなのは、毎週新しいフォームみたいなのが出る所です。去年の「リバイス」の時とか最低でした。「これは奇跡だ!」みたいな事を毎週やってるの。あれ?先週も奇跡おきてなかったっけ?何だよこの毎回起きる都合良い奇跡。そんな毎日奇跡おきてたらそれは日常であって奇跡とは言わないっしょ?この人達の頭がおかしいようにしか見えない。
しかも2週目後とかにはもう型落ちしてるパワーアップフォームで毎回何を喜んでるんだか。どうせすぐに使わなくなる使えなくなる使い捨てパワーアップなんか見せられてもカッコ良くもなければ面白くも無いし、冷めた目でしか見れないので、劇中の登場人物の熱さと反比例してバカバカしく思えてくる。こういうのがね、仮面ライダーの毎回のお決まりのパターンでそれを何年も繰り返しやってると。
平成後期は2週に一度の課金アイテム(新しいおもちゃ)だったのが、令和1発目の「ゼロワン」から、1週に1度になってしまって、おいおいこれは酷過ぎないか?ライダーは2話分を同じ監督がまとめ撮りするので、少なくともそれまではその監督が担当する話の前後編の中で一つ新アイテムの見せ場を作ればいいという形だったのが、令和からは2つになったので、ますますただのノルマに成り下がって、まともなドラマなんかやってる余裕が無くなってしまい、見るも悲惨なものになってしまった。
これがね、ドラマとして見てるんじゃ無く、単純に新しいフォームや新しいおもちゃが出てくる事を楽しみに見てる人は、毎週出てくるんだからそれが面白味だし、おもちゃ屋で新しいアイテムをどんどん買う楽しみがあって、それこそが仮面ライダーの面白さなんだって思ってるんだから、それはそれで一つの形なんです。
というような事を過去作の感想でも何度も書いてきた。そこが私は今の仮面ライダーの
大嫌いで見ていて一番苦痛な部分だと。せっかくの新アイテムの見せ場が何の魅力も無いノルマにしか見えなくてキツイ。じゃあ何で今回のギーツは面白く見れたのか。ギーツは過去作と何が違ったのか。
それはアイテムを文字通りただのアイテムにした事。デスゲームが開催される中で、ランダムで配布・入手できるだけの、奇跡でも特別でも無いただのおまけみたいなもの。強力なアイテムが手に入ったらラッキー程度。
じゃあ過去作と比べてありがたみが少ないのかと言えば、例えば主人公のギーツに基本のブーストマグナムフォームがあったとして、そこに実質は他のキャラ用のアイテム。例えば「ビート」「モンスター」「フィーバー」とかそういうのをその都度使っていき、大人から見たらただの使い回しだとわかるものを、幼稚園児とか小学生とか単純な目で見てる人にとっては毎週ギーツがパワーアップしているようにも見える作りにしてある。
簡単に言えば「子供騙し」です。素晴らしい!今の仮面ライダーの本質はまさしく子供騙しだと思うんです。それを過去作みたいにシリアスな顔をするんじゃなくて作る方も堂々と「仮面ライダーなんてただのバカバカしい子供騙しのジャリ番ですよ」と衒いなく主張してくる。正直でよろしい!
しかもね、今回の主人公ギーツのデザインモチーフが狐。カブトムシとかライオンとかは子供にとってカッコいいモチーフだと思うしわかりやすい。でもキツネって主役に使うモチーフとしてはやや弱い気がしますよね。
でも狐のキャラクター性で言えば「人を化かす」のがわかりやすい特徴。仮面ライダーの本質は子供騙しであるのならば、人を化かす狐のモチーフは最適じゃないのか?というセンスが凄く面白い。
おお~メタで面白い作りじゃないか!と思っていたら、そこがどんどん加速してくる。デザイアグランプリ、ジャマトグランプリ、ナントカゲーム、とか1クールあるかないか10話くらいで仕切り直して新しいゲームが始まるのが今回のシリーズの特徴でした。
これ、仮面ライダーってコンテンツと一緒じゃないですか。実際は1年ですが、最終回を迎えて終わったと思ったらまた次から新しいシーズンが始まる。それを20何年とずっとやってきてる。ギーツはそういうメタ構造を意図してやってる作品というのがわかる。
しかも中盤くらいでギーツの熱烈なサポーターである、ジーンというキャラクターが出てくる。演じるは「スーパーヒーロー戦記」で石ノ森章太郎役を演じた鈴木福君。本人も仮面ライダーの大ファンでリアルなサポーターだという。
主人公に都合よく強いアイテムが集中するのは「サポーターが貢いでいるから」というのが明かされる。あははは!面白い!そりゃそうだ。
仮面ライダーが特撮番組で一人勝ちしてるのは、みんな飽きずにおもちゃを買って支えているから。私みたいに仮面ライダーにお金も落とさず文句言うようなどうでもいい視聴者では無く、ちゃんとお金を落として貢いでくれる熱烈なサポーターが居るから人気番組として成り立ってるんだぞと。
超ド正論。正しいしその通りだと思います。こういうメタなものをきちんと作品内に落とし込む。面白じゃないですか。
しかもね、今度はそんなサポーターにも釘を刺すんですよ。ジーン君もデザイアグランプリ=仮面ライダーという名の番組のオーディエンスであり熱烈なサポーター。そんな人に対してね、グランプリで必死に戦ってる人達が死んだりするのを見て「感動した!」とか言って拍手して、次の週(次の番組)にはケロッと忘れてるのがお前ら視聴者なんだろ?的な言葉をギーツから投げかけられてね、「いやぁ、耳が痛いね」とか福君に言わせるの。あのシーン最高じゃなかったですか?1年で一番面白いシーンでした。
つまり「仮面ライダーギーツ」という作品で主張していたのはこういう事です。
・仮面ライダーは子供騙しの下劣なデスゲーム番組だ
・そんな番組を見てる奴らも下らないやつらばっかだ
・そんな下らないものを作ってる俺らも消費する前提をわかった上でやってる
こんな現状をね、ちゃんと作品内で表現している。
いやさぁ、仮面ライダーに限らず、特撮とかアニメでも何でも良いけど、そんなのガキが見るもんじゃね?みたいなのに対してさ、「今の作品は大人の鑑賞にも耐えれるくらいに凄くて」みたいな言い方ってよくあるじゃないですか。仮面ライダーだって平成初期は作り手もそこを目指して作ってたりはしたんですけど、そんなの今はもうとっくに形骸化してるじゃないですか。
そもそも「大人の鑑賞に耐えうる」って何なの?アカデミー賞とか文芸路線のものならともかく、流行ってるエンタメなんて大人の鑑賞とか関係無いし、「少年漫画」のアニメ化とかを大人が見て喜んでるような時代ですよ。大衆に大人の思考が出来る視聴者
なんてどれほどいんだよ?って私は思うけどなぁ。
仮面ライダーで言えば「ブラックサン」の政治性の面白さと、「シン・仮面ライダー」のノンポリな感じのあまりにもアホくささ(原作がもっていたその要素を綺麗にスポイルしてしまう危うさ)と、TVで今やってるライダーの違いはどこにあるのかとかをきちんと分析できる人なんて、物凄いごく少数じゃないですか。
今回のギーツもポリティカル要素こそ入ってませんが、メタ構造を意識して取り入れる事で仮面ライダーというコンテンツに対する批評性が作品に生まれて、そこは凄く価値のある作品になってたと思います。この辺の評価軸、ファンの間でも出てくるかなぁ?
濃いオタクはTVの仮面ライダーなんかもうとっくの昔に見限ってるし、支えてるのはサポーターだから批評的な部分はそもそもが表面化しにくい。だからそこを作り手があえてえぐってきたというのは面白い機会だと思うのですが、その辺どうでしょう。何度も言うけど私はそもそもライダーのファンじゃないので。
最終クールだけ、ぶっちゃけいつもと同じ仮面ライダーっぽくてつまんなかったけどそこに至るまでは面白くて毎週楽しみに待ってました。最後は物語やキャラクターのまとめみたいなのを一応やんなきゃみたいなのがどうしてもたまっちゃったかな。
・ナーゴ
女ライダーというビジュアル面以外は特に存在意味も無く、話的には居ても居なくても
どうでもいいキャラだったのが残念。
・バッファ
なんでいつの間にか最後は良い人になってるのかご都合主義だった。
ベロバが圧倒的なビジュアルの良さで、私も好きだったんですが、お話的にはなんかうやむやに終わって残念。しかも途中でライダーに変身したのに最後は怪人というのが何とも微妙。
・タイクーン
昭和時代を知ってる人ならともかく、今の平成令和を見て仮面ライダーは平和の為に戦っているとか思ってる人が居るものなんだろうか?大概の作品はライダー同士がゴチャゴチャ争ってるものばっかりですし。
で、そこをやたらこだわったサポーターのケケラ(アマゾンズの人でしたね)もベロバと同じく最後は怪人体。ケケラこそ仮面ライダーに変身して、理想の姿みたいなのを見せつけてほしかったように思う。
・五十鈴大智
いやぁ、ナッジスパロウ退場からのジャマ神として復活の辺りはバカバカしい面白さがありました。2回目のデザイアグランプリの時でしたっけ?裏切り物がいる的な中で、こいつが何か企んでるだろうと排除されるも、そりゃあ嘘つきの狼なんだからロポの方だよね、からの実はロポでもなくナーゴだった、っていう展開は素直に上手いなと感じました。
結局いろんな所をうやむやにしてる部分もあるし、こんな子供騙しを見せられて、って怒る気持ちも無くは無いんだけれど「そりゃあ狐だからな。騙されたわ」で済ませられるのはモチーフとして本当に上手く行った部分だと思うし、最後も神社に奉納されたりするのもね、狐だからこそのオチで素直に面白かった。
メタ要素の入れ方が面白かったという視点ありきですが、久々に面白いライダーで満足度は思った以上に高かったです。いつ以来だろう?これの前で比較的面白かった方なのは「ビルド」辺りかなぁ?
次の「ガッチャード」も毎度の例に習って面白いのは最初だけなんだろうなぁ。「ゼンカイジャー」に続いて福圓美里さんがマスコットキャラやるのでそこだけは楽しみなのですが、話的には今回みたいな私好みのメタ要素が入るとは思えないし、また何年もつまらないライダーが続くのでしょう。
いつかメタ要素を更に深堀した「仮面ライダーマネー」みたいなのをやってくれたらきっと面白くなるよ。仮面ライダーはいかに子供騙しで金をむしり取るのか。
東映なんてね、セクハラ裁判なんか無視するような会社ですし、昔から「東映」の3角マークは「恥か・く義理欠く・人情欠く」の3欠くなんだって揶揄されてきました。とことん低俗な路線を突き進むのも東映の社風ですから作中がグチャグチャになっても稼ぐのが第一という今の仮面ライダーもきっと正しい東映。
そこを批判する奴も居るけど、この世界では金稼いでる奴が一番の正義なんだぜっていう作風で、今回の景和君じゃないけど、その中で創作と想像、商品性と作品性のバランスみたいなものに悩む、みたいなものが出来たら、それが私の本当に見たい仮面ライダーです。
う~ん、私の元にもデザイアグランプリの招待状届かないかなぁ?
(ザコに瞬殺されるやつだこれ)
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