僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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空白

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intolerance
監督・脚本:吉田恵輔
日本映画 2021年
☆☆☆☆★

空っぽの世界に、光はあるか。

<ストーリー>
ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。 


予告編を見ただけで、何これ超面白そうな映画じゃん!これは絶対に観ねば!と思ってたのですが、スケジュール的に折り合いがつかず結局見損なって、評判も良かったし、これ年末のベスト10とか決める時に見れなかったって後悔が残っちゃうかな~と思ってましたが、なんと遅れて近くの劇場でも公開されましたので、これは逃せないぞと結果見る事が出来ました。

 

いや、最初から最後まで心臓がバクバクして死ぬかと思った。なんかそれぐらい徹底してヒリヒリした作品でした。

 

先日観た「由宇子の天秤」と多少なりとも近い部分があるかと思いましたが、ドキドキ具合はこっちの方が圧倒的に上回ってます。ただ、それって良くも悪くもで、「由宇子」が静かなリアリズムなのに対して、こっちは演出過剰というか、結構カリカチュアライズされていて、単純に声がでかいのと相まって大袈裟な分、そりゃ感情を揺さぶられやすいかなとは。冷静に考えると、社会風刺として結構極端な描き方や繋ぎ方、詰め込み方をしてるな、という印象もあります。

 

ただそこで決してリアリズムを失わないのは、勢いに押されたからっていう部分だけでなく、登場人物の誰もが、「ああこういう人居る!」っていう現実感があったからだと思います。いやこれ大袈裟に強調して描き過ぎでは?まあお話だからな、とはならずにギリギリまでリアリティを高めたバランスが面白かった。

 

「由宇子」とどっちが上かなんて言うのはあまり意味が無く、それぞれの作品としての方向性が違いとして出てて面白いなと。インディー作品とメジャー俳優を起用した全国公開系の作品とでも違いますしね。かと言ってメジャーに媚びない感じは流石です。決してこれが感動作かと言えばそんな事は無いと思うし、真相が明かされるミステリーサスペンスとかの類でも無いですから。

 

英題についてる「イントレランス」は不寛容の意味で、1916年D・W・グリフィス監督の「イントレランス」って映画が有名。ってか私それは見てませんが、そこら辺からの孫引き的な引用でちょこちょこ目にしてきた言葉で、やはり世間の不寛容がテーマにもなっていた「X-MEN」とかでも「ゼロ・トレランス」編とかがありました。

 

英題にしてくるくらいだから、そこも大きな軸なんでしょうけど、やっぱり「空白」っていうのが色々な意味が込められてて面白いなと。娘を失ったけど、実は死ぬまで娘の事なんか何一つ知らなかった、っていうのも「空白」ですし、失ってしまった空虚感もまた「空白」であれば、娘が実際に万引きしたのかどうかという事実も「空白」にしてある。

 

店を出る前に手を掴んでしまうのはミスじゃないか?っていう言われ方も一部ではあるみたいなんですけど、あれ、多分わざとどちらにもとれるようにあえて狙った演出ですよね?事実や正しい事をあえて曖昧に見えるように、そしてどちらの解釈にも出来るように意図して描いてある。松坂桃李君演じるスーパーの店長も、過去に痴漢で捕まったのかとか、何かわいせつ目的があったのかどうかとかも、どちらの解釈でも出来るようにあえてぼかして描いてある。

 

映画としては、あくまで古田新太演じるお父さんが主演で物語やテーマも彼が軸で、松坂桃李君の方は助演的な感じなんですけど、元々彼の事が好きなのもあってか、桃李君の方に私はグッと来ました。


なんとなく彼の方に味方の心理が働いて、彼は悪い事してないでしょ?ってどうしても心情的には思いたくなるんですけど、そんな中での、特製のり弁当ですよ。唐揚げ入ってねぇぞ!ってブチ切れる姿にギョッとさせられ、あとから後悔して食っても居ない弁当を掃除しながら、さっきはスミマセンでした弁当おいしかったです、っていうとこがね、メチャメチャ凄いシーンでした。

 

マスコミやネットを叩くシーンとか出て来ますけど、映画を見る自分の立場もきっと似たようなもんなんですよね。桃李君好きな役者だし、彼はきっとそんな悪人とかじゃないよ、っていうある種のねじれたフィルターを自分からかけてしまっている。それって寺島しのぶ演じる正義おばさんと大して変わんなくね?って事ですよねきっと。

 

で、お父さんの方の空白だけじゃなく、その店長の方の空白も面白くって、この人、多分誰にも心を開いていないですよね。むしろ親父の方がキツイけど話としてはその心情はわからなくもないという存在でありながら、むしろ桃李君の店長の心の内がさっぱりわからない。そこもまた「空白」でした。

 

ここね、意外と世代論的なものもあるのかなと感じて、怖いおっさんなんてまだ世の中にいくらでも居るじゃないですか。大きい声を出せばそれで黙らせられると思ってる人。私個人としてはああいう人大っ嫌いですし、上司がちょっとそっち系列の大きい声でがなりたてる人なので、こういう人に対しての苦手意識は強いものの、世代としては自分はそっちの方にむしろ近い。

 

で、若い子って私も正直何考えてるのかよくわかんないんですよ。なんか何に対しても空虚だなって思う気持ちもあるんですけど、それってやっぱりこっちが決めつけてる勝手なイメージでもあるのかなというのはあって、なんか無気力で、何にでも醒めてて、今回の桃李君演じる店長みたいなイメージは確かにあって、ああ、こういう世代間の断絶みたいなものも、世の中にはあるよなぁと感じてしまいました。

 

そんな悩める中年世代の中間管理職の私。所謂ロスジェネ(ロストジェネレーション)の第一世代ですから、なんだかどっちの気持ちも理解出来るような出来ないような、という感じです。そういう断絶もまた「空白」の一つなのかなぁという気がしました。

 

自分と言えば、あの正義おばさんのボランティアとかビラくばりに無理矢理つれられてる女の子、あれがねぇ・・・かつての昔の自分もあんな感じだったなぁと思えて凄く痛々しかった。

 

その正義おばさんもね、長く働いてるから店にも思い入れがあって、桃李君のお父さんの前の店長とも仲良くしてたからあんなに必死なのかな?と思ってたけど、え?そこなの?ってビックリしました。

うん、あれは無いなとは思うけれど、誰が何を思ってるのかなんてやっぱりわからないものですし、彼女は彼女なりの良くも悪くもな感じではあるけど、彼女なりの考え方は持ってたはずなんですよね。一方的に気持ち悪いなって断罪してしまうのは簡単なんだけど、それはそれでね、寛容っていう意味ではどうなんだろうとは思うし、なんか全部を否定してしまうのは悪いのかなって考えてしまう。

 

学校の先生もそう、「今更理解者ぶるのはズルイですよ」っていう強烈なセリフがあったけど、ああいう葛藤はやっぱり人にはあって、それって親父にも言える部分ではありますよね。

 

最後は少しは反省して娘の事を理解しようとはした。じゃあそれで良かったね、許せるよねとは簡単には行かない。ぬいぐるみの中にあった化粧品。あれは万引きしたものなのか、お母さんが買ってくれたものなのか、それともなけなしのお小遣いとかで買った物なのかは誰もわかりません。

 

どういう解釈も出来るような描き方をしている。透明なマニキュアなんてものがあるのは私も知りませんでしたが(プラモのクリアコートみたいなもんか)、お父さんの前で化粧なんて絶対出来ないような関係性を作り上げてたのは、お父さのあの高圧的な態度が悪いからだし、万が一を考えて自分の部屋の中でさえ隠しておかなければならないっていう状況はやっぱりおかしい。

人の感想見ててDV直前の親子関係って言ってる人居ましたが、いやもうあれ、直接の暴力で無くとも十分なDVです。透明なマニキュアって、そこにあるけれど見えてないものがあるっていう暗喩ですよね。

 

一番最初に娘を轢いてしまったあの子だって、親父の態度次第ではあんな結末にならなかった可能性だってありますよね。あの子のお母さんは立派な人だったなぁと思うけれど、それだってもしかしたら一面でしか無いのかもしれない。他人の全部なんて誰だってわかりはしないんですから。

 

そんな「空白」だらけの世の中でね、何とか折り合いをつけなきゃ世の中生きていけないわけですよ。お父さんはそこにきちんとした答えがわかるまでは納得しねぇとかいう感じですけど、空白のまま埋まらないものだって必ずあるものです。この映画に「答え」なんてものが無いのと同じように。

 

キュアブロッサムは言ってたよ、「悲しみや憎しみは、誰かが歯を食いしばって断ち切らなきゃダメなんです!」って。

 

娘さんがなんであんなに必死になって走って逃げたのって何故でしょう?素性が知れて親に連絡とかされたら終わりだって思ったからじゃないのかな?もし今回のそういう事件が無かったとしても、あのままの生活をしてたら、娘さんが自殺とか考える可能性だってありそうなくらいの酷いDVでしたよね。

 

鬱になった奥さんみたいに、じゃあ出て行けば良いっていうほど自立もまだ出来ない子供ですし、多分、あの奥さんも娘の事も考えられない程の鬱だったか、娘を残してしまったのは親権どうので親父ががなりたてたんだろうなというのは想像できる。あまり親ガチャとか言いたくは無いけど、これくらいの状況だったら、なんかそういう言い方したくなる気持ちもわからんではない。

 

なんかそこ考えると、やっぱりモヤモヤは残る。あとはまた私個人の事になっちゃうけど、私も高校生の頃に親が離婚して、その理由もDVだったっていうのもあって、そういうのも思いだしてしまいます。

 

やっぱねぇ、人はそれぞれ色々な事情があるし、色々抱えて生きてるものですよ。そこに対して、いかにもとってつけた答えを出すよりも、色々あるよね、をそのまま投げかけてくるという作品は、本当に良い映画だなぁと思った次第。

 


吉田恵輔監督って前作の「ブルー」ってのも凄かったらしいのですが、私はこの監督は全然見た事無いかなと思ってフィルモグラフィーを調べてみたら、「純喫茶磯辺」と「銀の匙」は観た事ありました。が、骨太な社会派作品とかではないですし、桃李君が出ている「新聞記者」と同じく、今回はスターサンズっていう会社の流れもあるのかな?

 

で、そんな松坂桃李ですけど、やっぱり「シンケンジャー」を見た人にとってはその存在は特別なわけですよ。「孤狼の血」もそうですが、私がまだ見て無い「娼年」とか「あの頃」とか、とにかくどんな役柄でもチャレンジしたいという意欲が凄いですよね。

「新聞記者」の時のインタビューとかだったかな?イケメン俳優なんて言われてもそんなのでチヤホヤされるのは短い時期だけでしかないので、そこの枠に囚われずにリスクをしょってでも色々な役がやりたい、みたいな事を言ってたんですね。確かモデル出身で、「シンケンジャー」の時は特に俳優をやりたいとかではなかったけど、そこで演技の面白さに目覚めた、みたいな事を言ってたんですね(基本ポーカーフェイスですが、裏で色々実は葛藤を抱えているっていう役柄でしたし)、なんかその辺を考えると、あの松坂桃李がこんなに凄い役者に成長していくなんて凄く嬉しいなと、応援したくなってきますね。

 

だから私も彼に、「焼き鳥弁当、美味かったっすよ」って声をかけてあげたい。
意外とね、そんなんでも人は生きていけるものです。


だからブログを書いてると、それと同じで一事、面白かったですよの感想だけでもあると、それだけで生きていける!ってなったりします。

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