僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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ラストナイト・イン・ソーホー

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原題:LAST NIGHT IN SOHO
監督・脚本・制作:エドガー・ライト
イギリス映画 2021年
☆☆☆☆☆

夢と恐怖が、シンクロする

<ストーリー>
ファッションデザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)に出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していく。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に現実で謎の亡霊が現れ始め、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。そんな中、サンディを殺した殺人鬼が現代にも生きている可能性に気づき、エロイーズはたった一人で事件の真相を追いかけるのだが……。

果たして、殺人鬼は一体誰なのか?そして亡霊の目的とは-!?

 

エドガー・ライト最新作。というか実は「ベイビー・ドライバー」観て無い。見た奴だと「ショーンオブザデッド」「ホットファズ」「スコットピルグリム」くらいかな?

 

現代と60年代ロンドンがシンクロするサスペンスかと思ってましたが、予想してた以上にガッツリとホラーでした。とゆーか思いっきり好みのタイプの映画でメチャメチャ面白かった。

 

エドガー・ライトって思いっきりコピー世代の人で、過去作でも昔の映画のパロディーの集合みたいな作り方が特徴で、それがこの人のカラーと言っても過言では無いはず。

 

今回もね、そういう要素はいっぱいある。でも最近の映画のトレンドとしてジャンル映画の現代的なアップデートっていうのがあって、個人的にもそこは物凄く面白いと感じていて、すごく好きな路線。

 

「プロミシング・ヤング・ウーマン」なんかが割と近いテーマでやっていて、いわゆる「レイプリベンジムービー」というジャンル。それをジャンルにしちゃって良いのか?という部分はあるとして、要は酷い事をされて加害者に復讐の制裁を与えて行く、っていう部分で、ザマミロってスカッとするみたいな構造。でも「プロミシング~」は、いやいやちょっと待てと、そんな単純な問題じゃねーだろってそこをちゃんと踏み込んで、真面目に今の映画として作ってあった。

 

今回の「ラストナイト~」も女性搾取の問題に踏み込んでいて、「ジャンル映画」とか言って無邪気に楽しんできたものも、その影には色々と酷い問題が同時にあったんじゃないの?っていうのを描いてある。

 

エドガー・ライトはその辺をハマーフィルム(一連の古のモンスター映画の事です)に出演していた女優達のその後を知ったのが今回の映画のインスピレーションになったようです。

 

この辺りはね、昔はそうだったんだよね、で済ませちゃいけない話。今だって映画界のミートゥー運動とかあったわけじゃないですか。やっぱりそこは目をそらしてはいけない部分。

いや私だってね、AVとか見たりしますよ。お前だってそういう部分で間接的にでも女性の性的搾取に関わってるじゃん!とか言われたらそこはもうぐうの音も出ません。

 

またちょっと違う話ではあるけれど、一昔前のジャンル映画、私的には80年代辺りが特にそうですけど、そういうのを楽しんできた事を今更否定したって仕方無いし、それはそれで面白い半面、同時に今の倫理観だと色々と問題ある部分もあるかなって思ったりするのも、それはそれで目をそむけてはいけない部分だと思うし、そんな反省点も踏まえて、ジャンル映画の再構築とアップデートって面白味もあれば、凄く価値のある部分だと思う。
今のエンタメの最前線にあるMCUが面白いのはそこをちゃんとやってるから。だから私は「ブラックウィドウ」とかの消費のされ方が凄く勿体無いと感じる。

 

エドガー・ライト、今回凄いなと思ったのは、そんなジャンル映画への反省を再びジャンル映画に戻してくる、っていうのが面白いなと。社会派要素も入ってるしそこがテーマだけど、これは重くて堅い映画じゃ無くてエンタメに戻すっていうのをやるんだ?と。多分、世間的に評価されるのは「プロミシング~」の方なんだけど、個人的にはこっちが面白いかなと。そこは「由宇子の天秤」と「空白」の関係にも近い気がする。


序盤で、主人公が周りに馴染めない中で、甘い夢を見るっていう部分だけでも正直面白くて、エロイーズ役のトーマシン・マッケンジー、サンディ役のアニャ・テイラー=ジョイどちらも凄く魅力的。そこがね、男性目線でしょ?って言われるとそうなんだけど、それこそイギリスに来たばかりの時の、女性視点から見る男性視点の気持ち悪さ、怖さも含めて、ピリッとスパイスが効いてて、良いなって部分とどこか違和感がある感じが凄く良かったんですね。

 

そこからあれやこれやと雲行きがおかしくなってきて、後半はもう完全にホラー映画になる。それでいて、まあ映画としては当たり前かもしれませんが、実は行だった的なオチもつくと。

 

「いい名前だね」とか心にも無い事を誰も彼も言ってきて、ただ欲望のままにのしかかってくる男って、女性にとっては顔すら無いただのモンスターにしかならないっていうのがホラーになるって、なんか凄くわかる気はする。いや男の私がわかるとか言っちゃいけない部分なんだろうけど。

 

ロンドンでジャックつったらやっぱり切り裂きジャックとかも重ねてるわけで、「恐怖」の対象が時代や性差とか、視点によって色々変わってくるっていうのも面白い事をやってるなと。

 

音楽や絵作りも純粋に凄く良くって、満足度は高い作品でした。
物凄く好みな部類。

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