僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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すずめの戸締まり

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監督・脚本・原作:新海誠
日本映画 2022年
☆☆☆☆☆★

 

新海誠作品、基本的に興味ありません。頭の悪い中高生向けの映画であって、良い大人が見るもんじゃねーだろ、という印象が強い。

 

ただ、前作の「天気の子」は映画館で見て来ました。何故かというと、プリキュアが出てくるシーンがあるから。新海誠監督、初代プリキュアに結構な思い入れがあるらしく、東宝映画ながら、わざわざプリキュア東映に許可とって出したみたいです。同じプリオタなら多少は擁護せざるを得ない。

 

というのが半分の理由で、まあ実際に見た事無い物を勝手なイメージで語るのも良くないし、一度くらいは勉強の為に見ておくか的な感じで「天気の子」は見ました。まさしく噂どおりの「セカイ系」の極みみたいな作品で、ちゃんと社会と向き合わない奴はダセェしカッコ悪いし最低と日頃から思ってる身としては、う~んこれはやっぱりいかがなものかと思う、というのが正直な感想でした。

 

「天気の子」で感情を動かされる若い子が居るのはわかる。でもこのメッセージを肯定してしまうと、世の中がマイナス方向にしか動かないんだよね、と。映画ファン界隈では散々な評価、褒めてるのは素人だけという感じだった中で、唯一映画批評側で評価してたのが町山さんでした。「負の遺産からは逃げてしまえというのは正しい。本人の責任じゃ無い物を押しつけられる子供の辛さを描いているのは素晴らしい作品ですよ」的な事を言ってて、実は目から鱗でした。

 

私はもう40台で十分におっさんですが、そこはいわゆるロスジェネという世代です。バブルの後のマイナスしか押し付けられなかった世代。前の世代に対して、お前らふざけんなよ、こんな負の遺産ばっか押しつけやがって!資本主義の終わりを最初に経験してる世代。その前の時代も多少は知ってるからこそ怒りや逆に冷静な状況判断、考える知恵も身につけてきた。

 

それがやがて失われた10年が20年になり30年になろうとしてる。私らの次の世代や、次の次の世代、そこに対して負の遺産を突きつけてお前らも社会から逃げないでちゃんと戦えよ向き合えよと言ったって、それはわからないし可哀相な事なのでは?というのは確かに一つの考えかたとしてアリだなと思わされた。

 

例えば「いじめ」に関してもいじめに関しての登校拒否とかって私らの世代から社会問題になりました。というか私もその当事者の一人でしたし。そこに、負けずに立ち向かえっていう根性論を押しつけられて困りましたが、今は「逃げてしまうのも一つの手段。それは悪い事でも卑怯な事でも無いよ」っていう時代ですよね。そこを考えたら、新海誠もアリと言えばアリかもしれないとは思った。

 

ただそれでも、ただ逃げるだけ。若者の貧困を問題として描いてるのはわかるけど、ただの現実逃避の要素の部分が強くて、作品として好きにはなれないなぁと思ったのが前作の「天気の子」でした。

 

そんなんあったから、今回もどうせ同じだろうと「すずめの戸締まり」観る予定無かったんですよ。でも公開されると、どうやら今回は東日本大震災をテーマにした作品らしいというのが聞こえてきた。

 

え!?それは見たいじゃん。っていうか見なきゃダメなやつだ。


どんな描き方になってるのかはわからないけど、エンタメは逃避の場ではなく、社会に向き合う為の勉強の場だと日頃から主張してる身としては、こういうのは向き合わなきゃダメだと思うし、こういうテーマこそ私が映画に望んでるものです。

 

シンゴジラ」を事ある度に私は嫌いな作品と言ってるのは、震災を茶化した描き方にしたのが納得出来なかったから。「現実」対「虚構」で、俺は現実なんかじゃ無く虚構を選ぶぜっていうのがシンゴジラなので、そこが私は大嫌いでした。「天気の子」も基本的にはそっち方向でしょう。

 

ただ今回の「すずめの戸締まり」ちゃんと向き合ってた。凄い。やればできんじゃねーか。


基本的にはね、新海誠って絵の人なんだと思います。綺麗な絵、そして丁寧になめらかに動くアニメーションの絵、それだけで本来はね、アニメってその部分だけで十分に人を感動させる事が出来るものです。

物語やテーマ、メッセージうんぬんの前に「アニメーション」というのはそう言う利点のあるジャンルです。それが予算や時間の都合でTVアニメとかになり、なめらかな動きとかでは無く、話を見せるようになっていったのが日本のアニメで、いやそうじゃない絵が動くだけで人を感動させられるんだってなったのが「ジブリ」とかですよね。
そういう意味ではやっぱりグラフィカルな所に拘る新海誠ってジブリの方の系譜と思う。そこにオタクの妄想を足した感じでなのが微妙な部分であり、逆に個性でもあったりはするのですが。

 

今回ね、観ていて一番に思ったのは、その葛藤が見え隠れする部分で、ぶっちゃけこれ片渕須直とかに物凄く嫉妬したんだろうな~とか勝手に想像しちゃった。
日本映画界に歴史を残す成績を残したのに、映画界からは失笑を受けるだけで中高生やアニメオタクにしか支持されなかった前2作と違って、片渕須直の「この世界の片隅に」は数々の賞を受賞、映画界隈からも大絶賛。
10年もしたら誰も忘れ去るだけの新海誠作品と違って、50年100年と語り継がれるべきアニメ映画になったと、その評価には天と地ほどに差がつきました。

 

そんなに社会と向き合う事に価値があんのかよ?じゃあこっちも本気出せば出来るって見せつけてやるぜ!的な感じがね、素晴らしいと思います。
いやこれは認めざるを得ないでしょっていう作品に実際なってたと思うし、そんな一皮向ける為の努力とかが垣間見える辺りもまた面白いんですよ。

 

映画ファンやってるとね、そういう例は過去にいくつも観てきてるんです。インディーズ上がりでカルトな人気を博した監督が、その路線で2~3作作った後に、もう一皮むける為に自分のフィールドだけじゃない場所に一歩踏み出すみたいなの。
去年私がベスト10に挙げた「ラストナイトインソーホー」なんかもまさしくそんな作品でした。これまで自己満足で楽しい物を作ってきたけど、もう少し大人になって社会に踏み出すには、狭い世界の価値観だけではダメなんだ、ちゃんと社会と向き合わないと、っていうね。「すずめの戸締まり」もまさしくそういう作品ですよね。

 

新海誠の原点であるエロゲの感動ポルノ的ガジェットである「えいえん」の世界。そこで向き合うのは、お母さんでも惚れた男(女)でもなく、自分自身であったという辺りに成長を感じます。

 

いつまでも成長しないマザコンとしての母親でもなく、ご都合主義のヒロインが自分を救ってくれるわけでもない。結局、自分を救えるのは、成長した自分自身。


こういう描き方をしただけで100万点。震災と言うテーマに向き合った部分でも100万点。これなら「この世界の片隅に」と肩を並べても何ら問題無い作品だと思います。

 

逆にちょっとこれはなぁ、というのは恋愛っぽい部分を少し残してしまった事。うわ新海誠こいつ土壇場で日よりやがった!って最後にガッカリしてしまいましたもの。
どうせ川村元気の入れ知恵だろうとか勘ぐってしまうし、今回の映画ではそういうのは必要無いんですってバッサリ斬り捨てられたら最高だったんですけどねぇ。

 

後は道中、過去に大きな震災のあった地で出会う、もしかして自分が被災していなかったらこうなっていたかもしれない自分、将来こうなるかもしれない、当たりまえに普通に生活している自分。ここはねぇ、温かい交流を描いた後に、みみずをとめられなくて全員無残に死ぬとか家族を失って悲惨な目にあうとかそういう展開の方が良かったのでは?何も考えずに見に来た中高生にトラウマを植え付ける作品にした方が、覚悟を見せられたんじゃないかっていう気もしました。


物語として最後は救われても良いと思うけど、実際に被災した人は救えないのも現実としてあるんだし、難しいかもしれないけど、ああこの幸せな交流はこの後みんな死んでしまうんだろうなとか思いながら見てたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 

あとすっげーどうでも良い事だけど、車のドアガラスは実際ああいう割れ方はしません。結構映画あるあるなんだけど、そこは調べるの怠ったなと気になってしまった。私はそれに纏わる仕事をしてる専門家なのでつい。

 

ついで言えば設定とかは若干不明で、そもそも要石は最初にすずめが知らずに抜いちゃったって展開なのので何とも言えないですが、その役目はやっぱり要石に戻すんだ、と思った。いやもしこれが自分だったらとか考えるとね、自分の命を犠牲にして1万人、10万人の命が救えるのなら、それは躊躇せずに草太さんみたいに、悔いが無いわけではないけどこれで本望的に行けるなと思うので。


まあ自己犠牲みたいなのは今の時代には合わないと思うし、そんな自己犠牲にどこかあこがれてそれがヒーローなんだって思ってる部分がちょっとある自分はやっぱりもう古い人間なのかもね、とは思ったりもしました。

 

草太さん、すずめの事を「すずめ」でもなく「すずめちゃん」でもなく「すずめさん」呼びするのが変に女の子としてではなく、一人の対等な普通の人間として向き合っている感じがしてそこは今風で面白いなと思っただけに、最後はハグしちゃうのいかがなものかと。これまでの旅した相手みんなハグしてるので、そういう流れですよっていうの作ってるのわかるけど、そもそもが気軽にハグする日本人なんて居ないし。もしかして新海誠、これ作ってる時に「HUGプリ」にハマってたとかか?


そんないくつかの不満点もありつつ、それでもね、年間ベスト級に素晴らしい作品でした。ぶっちゃけ新海誠なんて小馬鹿にしてたけど、これは素直に褒めたいし、褒めざるを得ない本当に凄い作品になったと思います。


震災をテーマにした作品を作る、もうその意気込みだけで他の監督よりもずっと評価したい。何も、直接描くだけが向き合い方では無いのは百も承知ですが、各々の作家・クリエイターとかが、社会に対してどう向き合って、それをどう作品に描くのかって凄く面白い部分です。

 

ジョジョリオン」なんかもね、そこを描き切ってあって非常に感銘を受けましたし、こういうのは色々な人の話が見たい。直後とは違って10年経ってまた違う感覚もね、生まれてくるものでしょうし、そこはアメコミの世界でも「3.11」とかの後の流れがそうでした。そこはね、言葉に語弊があるかもしれないけれど、面白い部分なんですよ。

 

因みに一番グッと来たシーンは国道6号線を抜ける所。
その辺りに行った事が無い人はあまりピンと来ませんが、東京から茨城、福島の原発の近くを抜けて宮城まで続いてる道路です。私はここ、再開後に2度ほど通り抜けた事があるんですけど、やっぱりね、ものすご~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~く衝撃を受けました。福島原発のすぐ隣なので、期間禁止区域になっていて、この規模や距離の街が一つ廃墟になってるんだって物凄い衝撃を受けたんですよ。

 

今はどうなってるのかわかりませんが、汚染の数字が表示されてたり、車は窓を閉めて内気循環にして下さいとか注意書きの看板があったんですよね。バイクも通れませんでしたし。なので今回みたいにオープンカーでなんてもってのほかだったはずです。それが除染がいくらか進んで規制が緩くなったのか、或いは今も同じ状況なんだけど、デリカシーの無さをあえて表現するためだったのか(意外と綺麗な土地だなとかわざと言わせてましたし)その辺りはよくわかりませんが、私にとっても実際に体験して色々と思う所があった場所でした。そこが実際に出るのはやはり気持ち的に揺さぶられる部分が大きかった。

 

でもねぇ、あの衝撃を経験して、それでも日本は脱原発には向かわないんだなっていう現実を知って、絶望もしたんですよ。あれを見て原発ヤバくね?って思わない人間は何なの?頭悪いの?そこで世論が変わらないなら日本はもう終わりだなって思ったんですけど、自分の身の回りに何も影響無いなら無関心というのもまた人間の普通の姿なんだよな、自分だって人の事どうこう言える立場かよ?ってのもある。


新海監督、次は原発をテーマにした映画を作って下さい。主人公は勿論JKで。
チェレンコフ光の表現とか、深海さんのこれまでの光の演出のテクニックが生かせるかもしれませんよ!



という感じでの今年の映画館納めでした。
いやぁ毛嫌いせずに見て良かった。
毎年恒例の年間ベスト10企画は年明けにやります。

 

今年の更新はこれで最後になりますので
来年またよろしくお願いします。
1年間ありがとうございました。
良いお年を!

 

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