僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

死刑にいたる病

www.youtube.com監督:白石和彌 
原作:櫛木理宇
日本映画 2022年
☆☆☆☆☆

 

<ストーリー>
 ある大学生・雅也のもとに届いた一通の手紙。
それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村からだった。
「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。
過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、 事件を独自に調べ始めた雅也。
しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―。

 

 

映画ファンからも白石和彌監督作品なら外れ無しと信頼も高く、俳優も白石監督の作品にならどんな役でも良いから是非出たいとオファーも殺到してるらしい。もはや今の時代の日本映画を代表するくらいのポジションになってる感もありますね。私は「孤狼の血」くらいしか見てないので詳しい所は知りませんが、映画ファンの話を聞いてる限りでは、「邦画って面白い映画無いよね」的な薄っぺらい事を言うような人には白石作品を観とけと一言で済む感じがしないでもない。

 


とまあ、私もそんな感じで、「孤狼の血」も実際メチャメチャ面白かったし、そんなに言われる白石監督なら見ておくか的な感じで足を運びましたが、いやぁ、最初から最後まで緊張が途切れず面白かった。

 

予告編を見る感じでは、「羊たちの沈黙」のレクター博士的な、サイコパス殺人の事は実際のサイコパスに聴けっていう(「ザ・バットマン」もそれやってましたね)そんな感じの作品なのかなと思ってましたが、これがなかなか。そっから先に踏み込んでくる感じがとても面白かった。

 

以前にも何かの記事で書いた気がしますが、世の中にまともな人間なんてそもそもめったに居なく無いですか?私はそう思えるような人になんて片手に余るくらいしか会った事が無いし、そもそもそんな風に自分が思った所で、人間なんて裏で、或いは心の奥底で何を考えてるかなんて実際わかりません。

 

私は客商売してますけど、世の中サイコパスだらけですよ。人殺しなんて犯罪まではいかなくとも、他人の気持ちを考えられない自己完結型の人間の何と多い事か。そんなんだらけで嫌になると嘆きたくもなりますが、そうじゃなく、それが当たり前、それが世の中というものなのでしょう、と私は思う事にしている。

 

いや、映画の中の阿部サダヲ演じる榛村はそんなんと比べ物にならないくらいとんでもない人間なのですが、彼の人心掌握術、メンタリストとかそれこそ先日観た「ナイトメアアリー」なんかもそうですけど、人の心の隙間に入り込み、その人をコントロールしてしまう術ってホントに凄い。

 

ただこれってさぁ、同時に世の中に結構あり触れてる事かもね、とも思う。こんな事を言ってしまっては良くないのかもしれませんが、客商売やっててさ、相手を褒めたりすると、良い気分になってるのがわかると、ああこの人は単純な人間なんだな、とか私は内心思うもの。勿論、それだけで全てが上手く行くほど世の中は甘くないですが、そういうのって商売のテクニックの一つですよね。

 

そんなのがあるので、私個人は、そういう商売的な所で褒められた所で、それは仕事としてやってるだけだよね、とか思ってしまいますし、例えばキャバクラに行ったとしましょう。私個人の意図で行く事はありませんが、仕事の流れで数回は行った事がありますけど、行くと凄い困るもの。
キャバ嬢も仕事でやってるんだから、と最初から醒めた視点でしか見れないし(アイドルとかにハマれないのと同じかも)、そこはこちらも仕事として適当に合わせるしかないという、内心物凄く空虚な感じになってしまう。勿論、どんな状況でも話してればそこに得られるものはありますけども。

 

映画の中の榛村も、別に誰でも操れるというわけではない。このタイプならこう感情や思考をコントロール出来る、という得意分野があるから、全て同じタイプの人間のみを狙ってきた。

主人公の心の中にグイグイ入ってくるのが恐ろしい&面白い。それでいて、見てるこちら(観客)まで感情をコントロールされてくるのがまた面白い。

 

そもそも映画ってそういうもの。見ている観客の感情をいかに操るか、というのを演出なり監督は常に考えている。新海誠が、観客の感情の波をグラフ化してそれに基づく演出をしているというのは一部の人には有名らしい(私はマクガイヤーゼミでそれ知った)。そこまでデータにするまででは無くとも、作ってる方はそこを考えて作ってるのは当然の話。今回、やっぱり演出が凄くて、面会室の壁を乗り越えてくるシーンとか(「ラストナイトインソーホー」にも近かった)、そこまででなくとも、ガラス越しに顔が重なってたりと、細かな演出も面白く、立会いの看守の心さえ掌握している事がわかるシーンとか、とてつもなく恐ろしかった。そこのシーンは原作には無いオリジナルの部分の様子。

 

原作ありの映画で一つだけ注意しておかなければならないのは、その面白さが、元々の原作が持っている面白さであるのか、映画として演出されたからこその面白さなのか、その面白さはどちらの手柄なのかっていうのはきちんと把握しておかなければならない部分。勿論、実際に原作を読んでみればそれが一番よくわかる。

 

私は今回、原作を読んでいないので、そこの正しい所はわかりませんが、少し調べた感じでは、話の大筋は同じながら、画の演出などでより恐ろしさを強調したり、原作の持っている魅力を十分に把握し、そこにより深みを加えてあったりしている様子。そこはやっぱり監督の手腕という所かなと思う。

 

サイコパス殺人鬼に取り付かれ、飲み込まれそうになった主人公が、実際に人を殺しかけてしまうが、そこで恐ろしくなり踏みとどまる。単純だけど、ここが境目っていうのはよくわかる気がする。

 

私個人の感覚としては、人を殺したいとか、倫理を踏み越えた犯罪的な所に惹かれる気持ちそのものは否定できないと思っていて、ただそんな気持ちを抱えてはいても、実際には手を出さない、倫理の壁はちゃんと守りますよ、ぐらいが所詮は人間じゃないのかなぁ?と思うタイプの人で、そういう想像すらしてはいけない、そんなのまともな人間の考える事じゃないよ、まで言われると、そうかなぁ?とか思ってしまう方。最初の方に書いた、そもそもまともな人間なんか言う程この世の中に存在するかっていうのはその辺にも関係してくる。

 

そういう意味では、阿部サダヲ、凄くリアルだなぁと思ったし、私は元々この人がボーカルをやってたグループ魂の「君にジュースを買ってあげる」という曲をたまたまラジオで聴いて、こんなDVをコミックソング的に歌うなんて人としてありえないな、と思った半面、これを平気で受け入れてる世の中って何なの?と憤りを覚えた記憶があります。なんか今回、人の倫理観を抉ってくる、という意味ではその延長にある作品だなぁという気がしました。

 

そして白石監督と言えば、次が「仮面ライダー ブラック・サン」です。個人的には映画で見たかったというのが正直な所なのですが、アマプラでの配信ドラマだそうで・・・。う~ん「アマゾンズ」と同じコンセプトなんだろうけども。

 

実は今回、白石監督なら見たいって思ったのって、「孤狼の血」の時のこのインタビュー記事がきっかけだったります

news.goo.ne.jp

ヒーロー物なんて別に好きじゃないけど、マーベル映画が素晴らしいのはエンタメ作品でありながら社会派要素をちゃんと入れてる所だっていう評価をしてるのが流石だなと。

所謂アメコミ界隈、元々アメコミが好きだったタイプの人なら、そういうアメコミの持つ社会性とのリンクみたいなのは昔から語られてるきましたが、映画界隈だとそこの視点に対する評価が弱いなって個人的には感じてたんです。
勿論、そこは映画だと普通に真面目なちゃんとした社会派作品っていうのが沢山あるから、そこを半端にエンタメの中でやっても・・・、エンタメはエンタメと割り切ってやった方が良いんじゃないの?っていう声が出るのはわかるにはわかる。

 

でもそうじゃないんだよな、エンタメの中にそういうテーマを組み込むことで、より深みが出るんだよって私は思うタイプの人なので、このインタビュー読んだ時、白石監督わかってんじゃん!と、凄く応援したくなったのでした。

 

演出力でグイグイ引っ張ってくれるのと、ありきたりな所から、さらに一歩踏み込んでくるこの感じ、本当に面白かった。

 

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