僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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哀れなるものたち

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原題:Poor Things
監督・制作:ヨルゴス・ランティモス 
脚本:トニー・マクナマラ
原作:アラスター・グレイ
イギリス映画 2023年
☆☆☆☆★

<ストーリー>
天才外科医によって蘇った若き女性ベラは、未知なる世界を知るため、大陸横断の冒険に出る。時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚くべき成長を遂げる。


「聖なる鹿殺し」「女王陛下のお気に入り」等話題作も多いヨルゴス・ランティモス監督ですが、私は今回初めてになります。
映画館に置いてあるフライヤーのビジュアルでエマ・ストーンの目力が強いのが気になったのと、世界3大映画祭の一つであるベネチア国際映画祭でグランプリの金獅子賞を受賞。という肩書きがあったので、じゃあ外れはしないだろうと見ておく事に。

 

去年もそうでしたが、今年は更に輪をかけて金欠なので(ちょっと前に物凄い無駄使いをしてしまい・・・)映画館は大分控え目になる予定ですが、これはきっとリアルタイムで映画館で見ておかないと後で後悔しそうだなと、足を運ぶ。

 

エマ・ストーンが自身の主演作として制作している部分もあり、フェミニズム映画として評判になってますが、調べてみると原作の方はちょっとまたそういうのとも違うらしいです。今回の映画のオチからさらにひっくり返る展開があるのだとか。ただ、映画は映画として独立した作品としてその辺りはあえて入れずに今回のような形にしてあるようです。

 

ウィレム・デフォーのビジュアルからわかる通り、フランケンシュタイン系譜の作品。人工的に作られた無垢な存在が世間とどう向き合っていくか、というのが主軸で、女性の自立と、言いよってくる男たちの滑稽さを存分に描くと言う部分ではまさしくフェミニズム映画なんですけど、単純に子供が大人に成長していく物語的な視点でも見れなくもないので、どっちかというと私はそんな感じで見てました。

 

ただのアホタレのガキが性欲を憶え、そっちに走りつつ、本を読んで哲学や文化に触れ、そして社会の色々な部分に触れていく事で、政治的な側面も身につけていく、っていうのはそれこそ社会活動なんかの果てにやっと社会にも目を向けられるようになった自分自身にも重なる部分があって、何気に共感しながら見てしまいました。

 

親であるゴドウィン・バクスターの愛称が「ゴッド」であり、創造主を気取る愚かな人間的な皮肉も込めつつ、彼もまた親から虐待を受けて肉体を切り刻まれて今の姿がある。そこで彼は親への憎しみや愛情といった感情を切り離し、技術や理論の構築に自らの価値を見出す辺りもまた結構な共感ポイント。

 

私も昔から自分の脳内から感情を切り離す思考を自分なりに実践してきた部分があります。昔から「感情的になって冷静さを失った判断」をする姿は愚かだと思ってる所があって、昔は富野由悠季信者だったのもあって尚更「生の感情をむき出しにしすぎるな。これでは人に品性を求めるなど不可能だよ」だとか「人類は可程に情念を抑えなければならない時代なのだよ」みたいなセリフに共感しまくってた私は、感情と言うのはコントロールすべきもの、感情の赴くままに生きるのは動物であって、人と動物を分け隔てる物はロジックの構築なんだよね、的な理念は割と大きく今でも持ってたりします。

 

感情のコントロールって物理的なものではないから(脳内のドーパミンどうのはあるだろうけど)結局それを制御できるのは自分自身の脳内をどうコントロールするかですし、逆に言えば頭の中だけで解決・考えるだけで全てを解決できるんだから、老若男女問わず誰でも可能な技術なんです。100メートル走で10秒切れとか言ってるわけじゃない。ましてや空を飛べとか言うんじゃないんだから、理論上は誰でも可能な、しかもわりかし簡単な部類。

 

そもそもが私は脳が肉体をコントロールしているという認識で生きてたりします。正座とかで足がしびれるじゃないですか。その時は、頭のてっぺんをコンコンしてみて下さい。足のしびれが気にならなくなります。足の先と脳天と言う物理的な距離が理由なのか、それとも脳と言う特殊な機関ゆえの導達率の優先順位みたいなものなのか、そこまで調べてはいませんが、人体の構造としてそういう仕組みがあるので、私の中では自分の身体のコントロールって「メンインブラック」に出てきた脳の中の小さい宇宙人じゃないけど、ああいうイメージを持ってたりします。

 

普段から、文字を書く時も綺麗に書くにはちゃんと集中してやんないと無理ですが、汚い字で良ければ身体の自動操縦にまかせて私は字を書いてたりします。マニュアルとオートの差みたいなものですね。この辺、は自分で考えた感覚で何かに書いてあったとかじゃ無いのでどれほどの人が理解してくれるものなのかわかんないですけど。

 

そんなんもあってね、脳と肉体がそれぞれ別物っていう解釈は、とても面白く感じる部分です。ファンタジーやSFは元々そういう側面も大きいと思いますけど、現実に無い部分を仮定した思考実験みたいなものですよね。

 

映画を使った思考実験という意味では、ちょっとラース・フォン・トリアーにも似てる部分があるかな?という印象だったのですが、実際に章立てしたりするのはトリアーの影響もあるのだそう。

 

基本的には皮肉の効いた英国SF風の作品ですが、監督のヨルゴスさんはギリシャ人だそうですし、エマ・ストーンは普通にアメリカ人ですよね(調べたら祖父がスウェーデンからの移民のようで)。物語と同じように、各地旅をしていくというのもあるかもしれませんが、色々なルーツを持つ物語やテーマをまさしくフランケンシュタインの怪物が如くツギハギして作った印象もあり、予想していた以上の面白さがある作品でした。

 

それこそフェミニズム文脈でも良いし、独特のビジュアル、アート感でも良いですし(私はあのでかいパフスリーブに「ファイブスター物語」味を感じました)一つ一つのピースに着目して観ても面白いし、逆に総合芸術としての映画としてもなんとも言えぬ味わい深さがあって、良いのではないかと。

そして!本はやっぱり読まないとダメですね。あの船上のメンター的なおばあちゃんの本のくだりは本当に名シーンでした。

 

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