僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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犬鳴村

犬鳴村 [DVD]

監督・脚本:清水崇
日本映画 2020年
☆☆☆★

 

<ストーリー>
臨床心理士の森田奏の周辺で奇妙な出来事が次々と起こりだし、その全てに共通するキーワードとして、心霊スポットとして知られる「犬鳴トンネル」が浮上する。突然死したある女性は、最後に「トンネルを抜けた先に村があって、そこで○○を見た……」という言葉を残していたが、女性が村で目撃したものとは一体なんだったのか。連続する不可解な出来事の真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルへと向かうが……。

 

ホラー映画は好きなので、劇場公開時にも、観ようかな?とは思いつつ、結局スルーしちゃってました。ホラー映画好きなのは、怖い物が観たいとかじゃなくて、単純にホラーには名作と呼ぶべき面白い作品がいっぱいあるからってのが大きいんですけど、同時に下らないやつもいっぱいあって、怖かったけど、話として或いは映画としてそんなに語る事も無いかな、っていうのもあるからです。

 

今回の「犬鳴村」、なんとあの「呪怨」の清水崇監督です。中田秀夫「リング」と共にJホラーの代表作みたいなもんですからね。そんな作品を作った人の新作ってどんなんだろうと気にはなってました。

 

ただ一口にJホラーと言っても流れがあって、「リング」は後に小中理論と名づけられる演出手法で知られる作品。あえて見せない事でより観客の想像力をかき立て、恐怖心を煽るという手法。

これ、映画演出における基本的なロジックに通じる部分があって、よくTVと映画の違いで言われる「セリフで何でも説明するのは映画としてはダメな演出」っていう部分と基本的には共通してる物です。

 

TVは自発的に観るものではなく、TVのスイッチをつけて老若男女、誰もが無料で目にするものだから、誰でもわかるように作らなければならない、っていうのがTVの考え方で、映画は自分で映画館に足を運んで自発的に興味の対象として選ぶ物だから、ある程度のリテラシーを観客側に求める事が出来る。

 

これこれこういう流れで、こういう表情をしてるんだから、後は言葉で言わなくとも何を考えているのか、どういう感情なのかはわかりますよね?と客側に投げて、観客の脳内で作品を完成させるというのが映画的手法。

 

投げる方もそれを観客が理解できると信用しなければならないので、客を信用して無い人が撮ると、結局セリフで説明してしまうと。映画ファンにしてみれば、そういうのが下手な映画であり、下手な監督っていう事になります。

 

勿論、これにはメリットデメリットがあって、メリットとしては観客側の想像を利用する事によって、監督が思っている以上に何十倍も膨らませてくれたり、想定以上の刺さり方をしてくれる場合もあれば、逆にデメリットとしてはボールを投げても、それに気付きもしないケースも生まれてくる、という場面も出てきてしまう事。

 

観客がどこまで受け取ってくれるかは、結局は観る人しだい、という事になりますよね。だから、なるべく多くの人に伝わるようにとセリフ過多になってしまったりもするわけで、TVドラマの映画版なんかはそこがポイントになって来ます。

 

TVと同じスタッフが同じ感覚で映画を作ってしまえば、ただお金を払って観るTVドラマにしかならないので、映画ファンは安易なTVドラマの映画化を嫌う、という構造が生まれるのはそのせい。TVより予算をかけて海外ロケしました、ぐらいのものが多くなってしまっている原因の一つですよね。

 

ただそれが悪いのかと言えば、結局その手の映画を好んで観る人は、単純にTVから映画館に客層がスライドしてるだけで、本格的で上質な映画を観たいって観客なんだから、それで良いとも言えます。TV的な演出から急に映画的な演出にされたって、ポカーンですよ。よくわからなかったって困惑されるより、TV観てる人がそのまま楽しんでくれれば良い、というのも考え方としては決して間違ってるわけじゃあないとも思います。

 

で、Jホラーって海外のホラー映画よりずっと怖いって当初言われてたのって、実はその辺が関係していて、同時に、全く怖くないっていう意見も出てくるのは当然の話で、投げたボール(恐怖演出)を自分の解釈で受け止めた人にとっては自分の中で想像を何倍も膨らませて物凄い恐怖を感じて、ボールが投げられた事に気づかない人は、え?こけおどしじゃん。匂わせるだけで出てこないじゃん!とそこにそもそも恐怖を感じて無かったりするから、だったりします。

でもそんな映画のロジックに密接に結びついている演出だったからこそ、世界中にJホラーっていうのが評価され、フォロワーも増えて行きました。

 

はい。ここまでがJホラーの基本みたいなもので、この流れに「清水崇監督」も「呪怨」も、ましてや「犬鳴村」は入っていません。ここまでが前置きの基礎知識編。

 

で、そんな小中演出、Jホラーの基礎が作られてきた中で、新しい流れを作ったのが清水崇監督であり「呪怨」という作品です。

呪怨の特徴は、におわせとかほどほどにして、とにかく怖い物をガンガン見せて行く手法。小中演出は「あれ?画面の奥に何か居る?・・・いや気のせいか」なのに対して、呪怨でとった手法は「あれ?何かい・・・ドーン!バーン!ギャー!」というやり方。


超ストレートに怖い物を見せてしまうやり方です。ストレートな分、誰が観ても怖いです。おっそろしいのです。Jホラーに新しい流れを作ったんですね。そして大ヒットと。

 

これ、実は「エイリアン」と「エイリアン2」の違いでもあります。エイリアン1はリドリー・スコットが丁寧な演出で想像力を働かせたホラー描写やサスペンス描写でエイリアンを描いたのに対して、ジェームズ・キャメロンの「エイリアン2」は物量で攻めてくるアクション映画・戦争映画にジャンルを変えて作ったんです。映画好きな人なら1の方を高く評価する人が多いと思いますけど、大衆人気とわかりやすさは絶対に2の方が多いと思います。勿論、私はエイリアンは1派ですが、じゃあ2がダメかと言えばそんな事は無くて、2は2でやっぱり面白いですしね。

 

要はそうやって、本来持っていた持ち味とはまた別の事をやって、「呪怨」は本当に怖いぞ、となって人気が出てシリーズ化したわけです。ただ、同時にJホラーを終わらせてしまった作品とも言えるでしょう。

 

今はその両方の部分が生かされて、ハイブリッドした感じで系譜が残っていて、それこそ「透明人間」なんて古典的海外ホラーがJホラー的演出も踏まえた面白い作品になってるのが救いです。

 

で、こっからがようやく「犬鳴村」の話。


そんな、ある意味でJホラーを終わらせてしまった清水崇監督が今はどんなの作ってるのかな?というのが私のこの作品に対する一番の興味だったのですが、なるほど、こうきたかという面白さがありました。

 

私、この作品がどこの配給なのか知らずに観たんですけど、最初に出てくるのは三角マーク。へぇ~、東映で今はやってんだ、ぐらいに思って最後まで観終わると、これがもうメチャメチャ東映だった。

 

東映という会社の一番の特徴は、節操の無さです。「仮面ライダー」とか観てても凄くわかりますよね。売れた奴が勝ち、売れる為なら、売る為なら何をやってもいいんじゃ!っていうバイタリティ溢れる精神こそが東映スピリッツです。東映内部で「映画は芸術なんだ」とか言ったら多分、何言ってんだこいつ?って顔されるでしょう(あくまで想像ですよ。芸術性の高い東映作品だってきっと中にはあるでしょうし)

 


映画冒頭のPOV視点で、ユーチューバーみたいなのが心霊スポットに潜入みたいなシーンから、ああこの映画ダメだ。頭悪い奴がヤンキーの肝試しみたいなの見て喜んでるくだらない路線か、とガッカリしました。

 

が!我慢して観て行くとそこに色々な要素が出てくるというか、東映らしい、流行りものは節操無く何でもブチ込んでしまえというごった煮が出てくるんですよね。そこが凄く面白いし、すごく興味深い。

 

都市伝説で、ダムの下に沈められてその存在を抹消された村とか、もうベタもベタすぎ、百億回語れてきた定番ネタじゃないですか。

しかもその村に纏わる忌まわしき伝説が・・・とか、横溝正史の世界かよ!ってつい言いたくなります。犬っていうタイトルだけですが、やっぱり「犬神家の一族」とかちょっと想像しちゃいますし(家系の話って部分も近いか)そしたらこれまた定番の童歌とかも出てくる。「悪魔の手毬唄」とかの世界ですよね。後は勿論「八つ墓村」とかも想像してしまいます。

 

私はこの辺、映画を数本観たくらいで全然詳しくないのですが、その辺の金田一耕介シリーズ、けっこうおどろおどろしい伝奇物サスペンスミステリーで、世代じゃ無いので後追いで観たんですけど、こういうのが一世を風靡したってどういう感覚なんだろうな?と思ったんです。

 

たまたま先日、ラジオを効いていて、普通のアナウンサーが好きなアニメとかありますか?とか聞かれてて、その答えが「私は割とアニメ観ますよ。今は『ひぐらしの鳴く頃に』にハマってます」とか言ってて、え?とか思いました。いや私「ひぐらし」全然知らないけど、確かタイムリープ物的な要素がありつつ、基本的な所は伝奇物とか猟奇殺人とかそういうので人気ある作品ですよね?(全然違ってたらゴメンなさい)

 

私はその手のジャンルはあまり知らないし興味も薄いんですけど、大昔は横溝正史が流行ったり、今の若い人にはひぐらしとかが流行ったり、時代時代ごとに一定の人気を得るジャンルなんだろうなと、不思議には思いつつ、同時にニッチなようで根強い人気が得られるものなんだろうなと。

 

呪怨」で一度終わらせてしまったJホラーというジャンルに、今は、今度はそういう物をひっぱり出してきたのかと、なかなか面白い試みをしてるなと感心してしまった。

 

感心ポイントはそこだけでなく、犬を食うとかの悪食(そういや「仁義なき戦い」でも犬食ってたな東映)、あるいは異種姦や異種婚。基本は幽霊なんでしょうけど、狼男やゾンビっぽい演出。カルト村やら何やら、とにかく気味の悪いもののごった煮。

 

それでいて、伝奇とかいわくつくきの村とか文化というベースがあって、差別部落問題みたいなものって、すごく日本的な風土ホラー的なのって、感覚的にどこか身についてるものがあって面白いなと。

 

Jホラーで新しい物を生みだそうとして、過去の文化を改めて振り返り、その古い物の中から色々な要素を拾ってきてパッケージにしてしまうと。

 

しかもね、実際にスマッシュヒットしたからっていうのは大きいでしょうけど、次の「樹海村」があって、今度は「牛首村」とか新作があるそうじゃないですか。「実録!恐怖の村シリーズ」っていう形でシリーズ化してると。1作目の成功が無ければ続かなかったとは思いますが、最初からこれってシリーズとして展開していければっていう作品ですよね。いやもういかにも東映。すげぇ東映っぽいです。

 

単純に怖いかどうかっていう視点だけじゃなく、そういった背景こそが予想してた以上に面白かった。

 

不思議な世界に迷い込む・・・みたいな雰囲気が面白いと思います。しかもそこは流石東映、わかってるというべきか、ただの偶然か意図したキャストなのか、「仮面ライダー龍騎」の主人公城戸信司を演じた須賀さんも今回出てるじゃないですか。まるでミラーワールドに迷い込んでしまった・・・みたいに思えて結構ツボなキャスティングでした。

意外とオススメです。

でもあの変なオチみたいなのは無かった方が良かったかも。

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