RORSCHACH
著:トム・キング(作)
ホルヘ・フェルネス(画)
訳:中沢俊介
刊:DC 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2023年
収録:RORSCHACH #1-12(2020-21)
☆☆☆☆
ロールシャッハが
帰ってきた――
マスクの下に、謎を隠して。
『ウォッチメン』から35年後の世界――。
アメリカを二分する大統領選を前に、
共和党のターリー知事暗殺未遂事件が発生。
犯人は35年前に亡くなったはずの
ロールシャッハと同じ服装、
同じ指紋を持つ男だった……。
禁断の、ウォッチメン続編・・・というのも今やあんまり珍しく無くなり、またかよ感も正直ありますが、今回の作者のトム・キングも当初はこの手の無謀な企画はやめといた方がいいよと思ってたそうですが、TVドラマ版「ウォッチメン」を見て再考。こういうアプローチなら行けるかも?と企画がスタート。
そんな経緯もあり、世界観的にはドラマ版と共有の世界感と言う事らしいです。
とは言え、セリフの一部でドラマ版で起きた事に少し触れてる程度で、あくまでコミックはコミックで単発で読める話。因みにこれの少し前にやってた「ドウームズデイ・クロック」とは一切関係無し。
ネタバレ的な事を言ってしまえば・・・
まあ単純に自分をロールシャッハの生まれ変わりだと思っている人の話ではあるんだけど、フィクションが現実に与える影響、まあ劇中では実際に過去に居た歴史上の人物でもあるので、人が他人に与える影響っていう読みとり方でも良いのかな?
結構都合のよい解釈というか、普通の「良い話」なんかだと、例えば誰かが亡くなってしまったけれど、あの人の教えは自分の中では生きている。それを忘れない限りあの人もまた生き続けるんだ、みたいな言い方とか、フィクションなんかでもそういうのって
よくあるじゃないですか。
ただそれが悪人だったら?あの悪魔のような奴はそうやって魂を引き継いでまだ生きているのだ!みたいになると、とたんに怖い話になるじゃないですか。そんな感じ。いやロールシャッハは悪人とかいうわけではないけれど。
影響と言えば聞こえがいいかもしれないけれど、言葉や表現、思想で他人を操る、って考えるとちょっと怖くなっちゃいますよね。
作り手としてはそういう部分をメタ要素として自分或いはコミックというものに重ねて、例えば一番最初の「ウォッチメン」をアラン・ムーアが描いた時に、やっぱりヒーローコミックの在り方全てを変えちゃったわけじゃないですか。勿論、そこに至るまでの流れとかは邦訳版の範疇でもそれなりに紹介されてきたし、いきなりの突然変異とかいうものともちょっと違ってたりはするものの、同じく86年のフランク・ミラー「ダークナイトリターンズ」と共に、そこがアメコミヒーロー物の歴史の境界線となったというのは多くの人が知る部分。(今回、本編中でもミラーの名前を出してるのはそういう部分でですよね)
何度か書いてるけど、私の中でも今でも「ウォッチメン」を越えるコミック、マンガとはまだ出会って無いですし(唯一匹敵すると感じたのは同じくムーアの「プロメテア」くらい)
そういう「影響力とは何か?」みたいな部分をテーマの一つにしていると言う面では「ドゥームズデイクロック」とそこまで差は無いような気がしなくはない。あれはスーパーマンの誕生こそがこの世界の全ての起源(オリジン)である、という話をやってましたし。
物語的には、事件を追う刑事が死んだロールシャッハの調査をしていくにつれ、その思想に影響を受け・・・みたいな、「ウォッチメン」本編でも引用されていた「お前が深淵を見つめる時、深淵もまたお前を見つめているのだ」という、ミイラ取りがミイラになる、みたいな話。
本物のロールシャッハがそこまで仕込んでいたか、と言えば、んなはずねーじゃん!と一蹴してしまえるんだけど、何かを神格化、傾倒してしまうと、実際に全ては計算の上だったんだ!だとか、それこそ自分は生まれ変わりなんだ!みたいなのを安易に信じてしまう危うさってあると思うし、その辺りの描き方は大変に面白かった。
そして、今回のロールシャッハことコミック作家のウィル・マイヤーソン。これがねぇ、スパイダーマンの生みの親ステーブ・ディッコがモデルになってるらしくて、ここはコミックファンにとっては面白いネタで、ウォッチメンの元ネタであるチャールトンコミックスのキャラは実際にディッコが生み出したキャラで、ロールシャッハの元ネタのクエスチョンもまたしかりであると。
しかもディッコって、アインランドに傾倒してたらしく、オットービンダーの交霊会とかにもフランクミラーと共に参加してたのは実際にあった話らしくて、凄い所からネタ拾ってくるなぁと感心する。
ただねぇ、コミックって基本的には左思想の方が強いし、右傾化はどうしても批判を浴びやすいように思う。ムーア本人が言ったんでしたっけ?ロールシャッハなんて汚くて嫌われるように描いたのに何でこんなに人気が出たのかわからん的な事。そこは単純に最後まで意地を貫き通して死ぬ姿がカッコいいだけで、思想うんぬんは関係無いだろうと思う。
なので・・・この本を読んで、自分が次のロールシャッハだと思いこむような感じにはならないのがまあ逆に安心出来る面白味と言えなくもないかも。それこそジョーカーとかVみたいに自分がなりきるみたいな人出てきたら怖いし。
果たしてこの作品が名作かと言えば、そこまででは無いと思うけれど、読んでる間は話に引き込まれたし、ホルヘ・フェルネスのアートもデイブ・ギボンズにちょっと近い感じで悪くなかった。ただねぇ、今後もきっとまたやるんでしょうけど、ぶっちゃけウォッチメンをいじり続けるのって不毛な気はするぞ。
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