原題:MADAME WEB
監督・脚本・制作総指揮:S・J・クラークソン
原作:MARVEL COMICS
アメリカ映画 2024年
☆☆☆
MCUとは別ラインで展開しているソニーの方のスパイダーマンユニバース(通称SSU)「ヴェノム」「モービウス」と続いての今作「マダム・ウェブ」。
本来は去年公開の予定だった「クレイブン・ザ・ハンター」も完成済みなはずなので、そっちも今年中には公開されるのでしょうか?
別ラインのアニメ版「スパイダーバース」シリーズが、批評的にも興行収入的にも歴史的なレベルで高い結果を出したのに対して、こちらの「マダムウェブ」は真逆の批評的にも興行収入的にも歴代1のワーストを記録。
まあ、一つ前の「モービウス」が正直物凄~~~く勿体無い作品で、伸ばせる要素がありながらアメコミ映画のゼロ年代初期くらいの感覚で作ってある感が凄く残念でした。そんな流れもあったので、多分今回のもそれと同程度の作品なんだろうなと、ハードルを低くしていざ映画を見てみると、あれ?思ったほどは悪くないのでは?
普通には面白かった。
ただ、褒められたような作品じゃないのも確かで、子供達がピンチの中で、自分のルーツ&敵の情報を探るためとは言え、海外に一人で行ってしまったり、その敵・今回のヴィランのエゼキエル周りの描写が何もわからず、あいつ結局何だったの?みたいな、明らかに雑な部分や問題があるのは否定しない。
マーベル映画初のミステリーサスペンス的な宣伝もぶっちゃけ的外れ。ヒーロー物+他ジャンルの融合という所で新しさを出していた一時期のMCUの面白さを期待すると、そこはまあ雰囲気だけそれっぽくしました程度の志の低さは否めません。監督のS・J・クラークソンさん、ドラマの「ジェシカ・ジョーンズ」やってた人っぽいので、それに近い雰囲気は確かにあったかも。
ただ私が感心したのは、わけわからんコミックの設定を映画としてアレンジしてこんな風にしたのかっていう所に面白味を感じました。
世間的には実写化で原作を改変するな問題がまだ続いていますが、世界で最も売れたコンテンツのマーベル映画は原作を改変しまくってますよ。それでトップをとってる事を考えても良いと思うし、私は改変はむしろしなきゃいけない派です。(生み出した原作者がそれに満足していないっていう意見は尊重すべきだし、その気持ちを否定はしません)
今回の原作の「マダム・ウェブ」は私も全然詳しくないですが、その存在とか設定くらいはアメコミ読みとしては流石に知ってます。そもそもヒーローとかじゃなく、スパイダーマン達を支えるサポートキャラみたいな存在。
最初に並べた通り、SSU(ソニー・スパイダーマン・ユニバース)はヴェノムにモービウスにクレイブンと、スパイダーマン無しでその周りのキャラだけで進めているという不思議なシリーズ。
これは主役のスパイダーマン/ピーター・パーカーの物語を権利や利益はソニーに残したままで良いですから、制作だけはウチでやりますよとスパイダーマンの本編とも言える部分をマーベルスタジオが作ってるからですよね。
だからスパイダーマンの周りのキャラを映画化してお茶を濁してる。その後結局どうなったのか不明ですが「エル・ムエルト」だっけ?そんな誰も知らないようなスパイダーマンの脇役まで映画化の動きがあったりしました。
いやいやいや、ピーターが使えないならそれこそマイルス君の方を軸に作れば良いのでは?と素人的には思うのですけど、スパイダーグウェンと共にアニメの「スパイダーバース」の方はそっちを軸にやってるから、実写は難しいのかな?とも思う。
でもさ~、スパイダーバースにも出てたけど、スパイダーウーマンとか別に別アースとかじゃなくても、ピーターやマイルスと同じ世界にスパイダー系譜のキャラなんて原作には山ほど居るんですよ。それこそスパイダーガールズの一人の「シルク」なんか割と最近は人気も出てるようですし、そういう所を映画化すれば良いんじゃないの?とアメコミファン(アメコミ映画ファンじゃなく原作ファン)は思ってたりしました。
そこで「マダム・ウェブ」です。いやずいぶんニッチなキャラを持ってきたなと思いましたが、予告を見たら普通にスパイダーガールズいっぱい居るじゃないですか。
おお、やっとそこに気がついたのかと思ったのもあくまで予告編。
いいですか、ネタバレしますよ。気にする人は以下注意です。
うん、実際はスパイダーガールズとか出ません。
いや全く出ないわけでもないのだけれど、後にスパイダーウーマンとかになる事になるマティ・フランクリン、ジュリア・カーペンター、アーニャ・コラソンという3人の少女の未来像としてヒーロー姿のカットが少しあるだけで、本編中ではまだみんな能力を身につけていないティーンエイジャーの普通の少女。
キャシーの能力は時間をも超越するみたいな言われ方をするので、少女たちが後にヒーローになった後の時間と行き来したりするのかな?とも思ったけどそんな事はありませんでした。
ああ、マダムウェブって白髪の老人として描かれてきたけど今回は普通にまだ若いのはそういう事なのね。後にスパイダーマン達を支える存在になる前の、いわば「エピソードゼロ」だったのか今回は。本来は「スパイダーウーマン」「スパイダーガールズ」とかの「エピソード1」的なものを先に作って、そこに登場する指揮官のマダム・ウェブをエピソードゼロとして後から映画化するみたいな形のものを、実際に律儀に0回からやる。今回はあくまでプレリュードで、本格的に盛り上がるのは次からですよって始めたら、いきなり超惨敗して企画が流れてしまった的な奴だこれ。
しかもね、アニメ映画の方じゃ無く原作の「スパイダーバース」を私は初めて読んだ時、蜘蛛に纏わる運命を持つ存在のスパイダートーテムうんぬんっていう部分、結構面喰ってしまって、偶然と思っていた物が実は運命として決定付けられていたんだよ的な路線、私はあんまり好きじゃないのです。
例えるなら「エクソシスト」でたまたま少女に悪魔がとりついてしまい、という所に面白味があって、もしかして身近に同じような事が起きてしまうんじゃないか?と想像出来るのが恐怖なんですけど、それを続編の「エクソシスト2」とかで、あの少女が選ばれたのは偶然では無く仕組まれた運命の存在だったんだ!みたいになります。
これ、無理矢理作るパート2ものとかでありがちで、パート1で事件に巻き込まれた裏にはこんな背景が実はあったんだ!系、私はあんまり好きじゃない。無理矢理くさくて。
スパイダートーテムの眷属うんぬんっていうのもそれに近い物があって、私はあんまり好きな設定では無いのですが、そこら辺はアメコミの良くも悪くもわけわからん部分だよなと受け入れては居ます。ああ、映画だと「エターナルズ」がそれに近いかもしれないですね、あの戦いの背後にはこんな歴史も実はあったんだというのを追加設定として後出しする感じ。
トビ・マグワイア版、アンドリュー・ガーフィールド版、トム・ホランド版とどれもみんなスパイダーマン大好きじゃないですか。私も好きだし。そういうみんなが好きなスパイダーマンのひな型みたいなものに対して今回の「マダム・ウェブ」が受け入れられにくいだろうなってのは想像出来るし、同じような路線ながら圧倒的なクオリティで見る者を黙らせた「スパイダーバース」と比べてしまうとこのクオリティの低さでは何とも・・・という感じはします。
ファンが見たかった内容との乖離という意味では、ベン・アフレック版「デアデビル」なんかにも近い物があって、アメコミヒーローが出始めた時期でVFXの派手なアクションこそがアメコミヒーローの売りなんだってみんなが思ってた中、何だこのスパイダーマンを地味にした2番煎じみたいなヒーローは?っていう感じで評価は散々でした。
でも私はベンアフ版「デアデビル」大好きな作品で、悪に私刑の暴力で制裁を与える事はヒーローじゃないんだよ、ヒーローの本質は敵を倒すのとは別の所にある、というのをちゃんと描いてある良い作品だと思って、私は昔から擁護して来ました。
そういう例と比較してね、「マダム・ウェブ」も世の中に理解されて無いだけで本当は良い作品なんじゃないですか?なんて事は確かにちょっと言えない所もあって、擁護する程のものは無いかなとは思うんですけど、「モービウス」が現代的なホモソーシャル的な所に踏み込めたはずなのにそこをスルーしたのと違って、こっちの「マダム・ウェブ」はシスターフッドやガールズエンパワーメント要素も意識はしていて、家庭に居場所が無いから家族以外の場所に居場所を作るとか、単純でベタではあるけどそれはそれで現代において大切な問題ですし、そういうテーマを多少なりでも見えたのは評価したい部分です。
ただねぇ直近の「マーベルズ」も不評でしたし、割と前ですがDCの方の「ハーレイクイン」もそうで、女の子大集合的な路線の映画はアメコミヒーロー物に関わらず、どうも低評価が続いてる印象で、せっかくそういう企画が通るようになったのにまた止まってしまう流れにならないかちょっと心配です。
ああそうそう、私は吹き替え版で見たんですけど、主人公役の大島優子はテレビもアイドルも興味無い私にはどうでも良い部分ですが(決して上手くは無かったけど聞いてて極端なノイズになるほどまでに悪くは無かった)。
そこより少女3人組の方。
伊瀬茉莉也、潘めぐみ、ファイルーズあいですよ。見事に全員プリキュア。
ついで言えば子安も敵として居るしな。
つまり私にとって「マダム・ウェブ」吹き替え版は実質プリキュアオールスターズでした。
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