監督:吉野耕平
原作:辻村深月
日本映画 2022年
☆☆☆
<ストーリー>
連続アニメ『サウンドバック 奏の石 』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が…。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」だけど日本中に最高のアニメを届けたい! そんなワケで目下大奮闘中。最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作だ。王子復活に懸けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら “ハケン=覇権” を争う戦いを繰り広げる!!
その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?
予告の時点では、ん~ちょっとどうかなとは思いつつ、りえりーこと高橋李依が頑張ってプロモーション活動をしてくれていましたので、興味のある題材でしたし、じゃあ見ておくかと足を運ぶ。プリオタとしては東映アニメーションも全面協力してましたしね。劇中アニメの監督は大塚隆史とか、そりゃあ気にはなるし。
監督の過去作品、原作の辻村深月の方も私は全く触れた事がありません。序盤は、お?これは「SHIROBAKO」の実写版的な感じかな?とワクワクしたのですが、新人監督VS天才監督の対立軸が出て来た辺りから、んんん~?これは一体リアルな話なのか?というのが怪しくなってくる。
ええと、ここは正直、私が中途半端なオタクだからっていうのが結構大きい。私はプリオタでガノタですから、アニメには全く抵抗がありません。けど私がアニメファンなのか?と言えば、ちょっとそんな風に自分から言ってしまうのはおこがましい部分が。たまに話題作や気になってるものを見たりはするけど、クール毎に、色々ある中でこれが楽しみ!みたいな感じでアニメには接して無い。
声優に関しても、プリキュア声優は応援してたりしますけど、例えば今回、お話の中で一人クローズアップされる新人声優が一人居ましたが、え?この子誰だろう立石晴香だっけ?とか思ってエンドクレジットを見て、ああ高野麻理佳だったのか、「それが声優」見てたよ。イヤホンズのまりんかね、くらい。りえりーとか藩めぐは顔見てすぐにわかったのですが・・・。とまあ割と中途半端に知ってて、全般的に詳しいわけではない。
アニメ全般に関しても、この天才監督って庵野なのか?普段アニメを見ない人にも刺さって、一億総オタク化みたいな流れを作ったのって、エヴァくらいしかないよね?それをお話的に面白い対立軸を作る為に、イケメン天才監督とかにしたのかな?でも実際のアニメ業界でそんな風に持ちあげられる人なんて実際に居なく無い?これってどこの世界線なんだ?
しかも土曜5時で裏表かぶり?昔ガンダムとかギアスとかやってた枠だろうけど、そんな枠で深夜アニメみたいに1クールなんてあったっけ?しかもそんな1クールアニメに社運をかける???
リアリティがありそうで、なんか現実とは違う感じが物凄く不思議に感じてしまって、ああこれはアニメ人気みたいなものに興味を持って、それを題材に話を作ろうと、一生懸命取材とかしたんだけど、当の本人はアニメになんか大して愛情も無い人が書いた話なんだろうなって、ちょっと醒めた視点で見てしまいました。
せいぜい、エヴァにハマった程度で、そこから少し広げてみましたって程度なんだろうなと。その過程でね、百万人に喜んでもらう事より、ほんの一人や二人かもしれないけど、これは自分の話なんだって思ってもらえるように「刺さる人にだけ本当に心から深く刺さるもの」を生みだしたい、それもクリエイティブとして一つの形だし、それはアニメに限らず「小説」や「映画」でもきっと同じ事だから、そこをテーマにした小説や映画だって作れるはず!みたいな気持ちが原作小説であったり、今回の映画でもきっと描けるはずだと信じて作った作品なのかなと感じた。
ただ問題なのは、そこがどうしても借り物っぽく感じてしまうのが難点。どうしても比べてしまうんだけど、「SHIROBAKO」が面白かったのは、実際にアニメ業界に居る人がアニメの事を描くので、借り物じゃないリアリティがあったし、その中での自分達の思いみたいなのも物凄く伝わってくるものがありました。
例えば今回の劇中アニメ2本もね。ああこれ本気で作ってる奴だ、っていうのが凄く伝わるんですよ。ただの劇中劇だから、それっぽいものがあれば良いだろうじゃなく、本当にこの世界の中でやってるアニメと思わせるくらいに凄い事をやってやろうぜ!みたいな気合が物凄く伝わってくる。いやメカデザイン柳瀬なのかよ!結構これカッコ良くね?実際にこのアニメ見たくなるぞ!と思わせてくれるし、大塚隆史も演出で見せてやるぜっていう気持ちが凄い。
なんかそういうのと比べてしまうとね、頑張って取材をしてこの題材を描いたのはわかるけど、なんだか「上手く作ろう」みたいな所が見えてきてしまって、がむしゃらに突っ走ったこの熱意を見てくれ!感がさっぱり無かった。
いや、結構上手いんですよ。私はこの映画が駄作だとは決して思わないし、むしろ上手く作ってるなぁと感心した方なんですけど、その上手さが逆にあだとなった感もなきにしもあらず。
最初は、嫌なプロデューサーだなぁと思ってた人が、実は結構良い人だったリ、天才と呼ばれる人も、ただの嫌な奴にせず、その人なりの葛藤もあるんだよって描いたり、そういう映画としての作りの上手さが、凄く作り物っぽい、いかにも頭で考えました的な感じで、なんかパッションを感じられないというかね。
面白いんだけど、そこが凄く勿体無いと感じたなぁ。最終回で主人公を殺しますよって言ってニヤッとする天才監督と、そこで慌てるスポンサーとかさ、それ何十年前のアニメ?キャラを殺して話題性を取るとか、天才じゃ無くいかにも凡人の考え方じゃないの?「皆殺しの富野」みたいなのを半端に勉強したんだろうか?とか気になってしまう。
ただこれ、見終わって色々調べてたら知ったんだけど、天才監督の方は磯原邦彦。新人監督の方は松本理恵をモデルにして作ったキャラクターなんですってね。
「セーラームーン」「ウテナ」「ピングドラム」の磯原監督は、私は全然触れた事が無い人。これ、劇中アニメのロボット物と魔法少女物それぞれ逆の方が良かったんじゃ?と思ったけど、磯原だから天才の方を女の子物にしたのか。
松本理恵は勿論「映画ハトプリ」で、その後見てはいないけど東映を離れて「京騒戯画」とかやってたのは知ってます。でも何でそっちがロボット物?
う~ん、この辺も私の中途半端な知識が邪魔してしまいます。アニメの監督って、いきなり無名の人がやれるわけ無いし、劇中でも一応演出上がりってのは一言だけセリフありましたよね?無名監督とか言われてたけど、そこでの演出が評価されたから監督やってるわけで、例え初監督作品でも、○○で演出をやってたとか、普通はその前のキャリアも出てきても良いはず。そこが語られないのは凄く不自然だったなぁ。勿論、私の中途半端な知識が邪魔してしまったっていうのは大きいとは思うけど。
話としては全然面白いし、上手く出来てるなとも思える作品なんだけど、初監督作品って映画でも小説でも漫画でも何でもそうですけど、初期衝動があってこそじゃないですか。なんかそこが描かれないのは変だよなってやっぱり思ってしまう。
誰かに刺さるものを作りたい、それは凄くわかるんだけど、じゃああなたは何を伝えたいの?あなたの気持の何を、誰に伝えたいの?君はきっと一人なんかじゃ無いって事を伝えたいのはわかるんだけど、そこをさらに踏み込んでほしかった気がする。なんか借り物っぽいなぁと感じたのはその辺かも。
あ、ここからちょっと映画とは離れた話をします。
私は創作と呼べる程の事はしていませんが、一応こういう「ブログ」という形で、自分の考えや気持ちをアウトプットする作業をしているという面では、同じとは言わないまでも、多少なりとも重なる部分はある。なので「誰かに刺され」っていう気持ちも実際にあるんですよ。
実はこれ、最近になってようやっと気づいたんですけど、私はブログのキャリアもあるので(このブログ以前にも10年前くらいに同じようなブログやってたので。その時は仕事が忙しすぎてフェードアウトしましたが)こうやって気持ちを書くのはそんなに苦じゃありません。いやたまに苦労して書いてる記事もあるけれど。でも、こんな風に気持ちを文字にするのが難しいと感じる人もそれなりに居るんですよね。
だからそう言う人にとっては、自分ではボンヤリしてた気持ちや感情をこの人はちゃんと文章にしてる!みたいな所に共感する人も中には居るんだなぁ、というのに最近ようやく気付きました。そういうのが「刺さった」って言うのかなと。
ただそこ、私の感覚だと「刺さってくれたら嬉しい」のは確かだけど、あんまりそこだけを重視はして無い。だってこんだけやってても全然刺さんないし。いやそれはお前のブログがつまんねーだけの話だろって言われたら全くその通りなのですが、刺さってくれたら嬉しい気持ちは持ちつつも、どっちかというと、これは自分には無かった視点だな、みたいな方を喜んでもらえた方が嬉しい。私自身も、人のブログとか読んでて、これは面白いなと思うのは、そういう部分だったりする。
だからこそ、この映画の伝えたい「誰かの胸に刺され」は、半分はわかるけど、残り半分は、う~ん私的にはそこだけじゃないのになぁという中途半端な気持ちになっちゃってるのはある。
この映画の中で、物凄く面白いなと思ったシーンが一つあって、外注アニメ会社のエースの女の子が「リア充め!」的な事を言ったら、そのリア充の人が「リアルしか充実して無い、空想の世界とかを楽しめない薄っぺらな人間って事ですよね?オタクの人はそこも充実してて羨ましいなって思います」っていうとこがね、半分コメディー的な要素でありつつ、もしかしたらこういう視点もあるのかもしれないな、って凄く面白かったし印象に残りました。いや言葉や意味としては実際間違ってるけれども。そこだけでもこの作品を見た価値はあったな、と思った。
中途半端なオタク的にはね、わ~い、りえりーだ!堀江さんの声も聞ける!これって実質「まほプリ」じゃん!はやみんも居たけどそれ速水奨の方!
とかそんなんだけでも楽しめましたし、色々あったけど結果良しとしとこう!みたいな作品でした。
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